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第2回 結核菌を早く確実に検出するには

結核の増加に伴い、厚生省は「結核緊急事態宣言」を発表し注意を促しました。
しかし実態は、注意を促すということで止まっているようです。
結核の確定診断にはX線による診断なども用いられますが、より確かな診断とその後の的確な治療のための薬剤感受性試験を行うためには、喀痰などの検体からできるだけ短時間に結核菌を検出することが重要です。
近年、分子生物学・遺伝子工学の発展に伴い、結核菌を遺伝子レベルで証明する技術が開発されています。この技術は結核菌に特有な遺伝子の有無を検体から直接検出できますので、発育の遅い結核菌の検出には極めて有効な方法といえます(一般の細菌が約20分に1回分裂するのに比ベ、結核菌は15−24時間に1回しか分裂しない)。
しかし遺伝子診断は、検体中の結核菌が生菌であっても死菌であっても陽性となってしまいます。また治療の指標となる感受性試験を行うことができません。このことにより、最終的な迅速診断には生きた結核菌を早く確実に検出することが重要となります。

CDCガイドライン

米国疾病対策センター(CDC:Center for Disease Control and Prevention)は結核の根絶に向けて、結核菌検査に関する次のような指針を提示しました。
1.抗酸菌染色での試験結果は、検体が採取されてから24時間以内に臨床医に報告されること。
2.結核菌の分離と同定試験結果は、10−14日間以内に報告されること。
3.薬剤感受性試験の結果は、15−30日間以内に報告されること。
 米国の医療機関ではこの指針に沿って検査が行われています。日本もこの指針を満たすような新たな検査システムを構築していく時期にあるのではないでしょうか。

求められる結核検査の迅速化

日本では、結核菌の検出には古くから小川培地(固型培地)が推奨され用いられてきました。しかし、結果が得られるまでに4週間から8週間という長い時間を要する固型培地での検査は、結核診断の迅速化が求められている現状に合いません。
米国では、従来より液体培地を使用し約2週間で結核菌を検出する方法が開発され広く用いられてきました。しかしながら、この方法は放射性物質を用いることから日本では普及するには至りませんでした。このような状況において、ベクトン・ディッキンソン社は放射性物質を用いず蛍光発色によって結核菌を検出する液体培地、ミジット(MGIT(R):Mycobacteria Growth Indicator Tube)を開発しました。

ミジット(MGIT(R))の組成と原理

基礎培地:ミドルブルック7H9ブロス+ペプトン等
発育促進剤:OADC(オレイン酸、アルブミン、デキストロース、カタラーゼ)抗酸菌の迅速な発育に必要な成分を供給します。
雑菌抑制剤:PANTA(ポリミキシンB、アンホテリシンB、ナリジクス酸、トリメトプリム、アズロシリン)抗酸菌以外の雑菌の発育を抑制します。
原理:底部に酸素感受性の蛍光センサーを包埋した試験管で抗酸菌を培養します。菌の発育に伴い液体培地中の溶存酸素が消費されます。それに伴い、センサー部に結合していた酸素が遊離し、センサー部が蛍光を発するようになります。判定は365nmの長波長紫外線の照明のもとに目視または機器で行います。

ミジット(MGIT)の利点

この液体培地ミジットを用いることにより、以下のような多くの有用性が報告されています。

(1)約2週間で結核菌を検出することができる。
(2)検出率は90%以上で、特に菌数の少ない塗抹陰性検体や喀痰以外の検体での検出率の向上が期待できる。
(3)遺伝子診断結果や画像診断結果との一致率が向上する。
(4)ミジットでの培養陽性後、直ちに薬剤感受性試験に移行できる。

また「バクテックMGIT960」により観察、判定が自動化され、より確実で迅速な検出、データの管理、省力化ができ、かつ検査従事者の安全性も確保できるようになります。

バクテックMGIT960

ミジットによる培養・検出・データ管理を行う、全自動測定システムです(寸法 W91xH134 x D71cm)。
菌の酸素消費と相関する蛍光を高感度な酸素蛍光センサーで1時間ごとに自動測定し、そのアルゴリズムから陽性を迅速に判断します。
一度に最大960本まで測定でき、陰性の場合42日間までの測定を行い、年間8000本の処理が可能です。キャリブレーションはすべて自動的に行われます。
また薬剤感受性試験もミジットを用いることにより、1週間で耐性/感受性の結果が得られるので、従来の方法より2〜3週間以上早く結果報告ができるようになります。2001年までには分離・培養・感受性試験がすべてバクテックMGIT960で測定できるようになります。
これからの結核菌の検査は、検査指針の改定・新しい検査法の開発など、すべての面において大きく変化していきます。結核根絶のためには「早期診断による確実な治療」が必須であり、より良い検査法の選択がその要であると考えます。

日本ベクトン・ディキンソン(株)
学術情報部

メディカル朝日2000年3月号より転載
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