この4年間で日本国内の検査体制は大きく改善された。日本の臨床現場では迅速診断法(イムノクロマト法)によるインフルエンザウイルスの検査が普及しており、PCR法による診断は稀であった。イムノクロマト法はPCR法と比べて1万分の1の感度しかないため、新型コロナウイルスの感染拡大阻止を目的とする感染者の検出には不向きであった。また2002年から2003年に中国で発生した重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)や、2012年からサウジアラビア近隣で発生している中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の感染拡大において、日本では1人の感染者も発生しなかったため、これらの感染拡大が発生したアジア諸国と較べてPCR法の普及が著しく遅れていた。今回図らずも検査基盤の整備に成功し、諸外国に追いつくことができたと言える。さらに次世代シークエンス法はこれまで一部の研究機関が所持する特別な技術であったが、今では臨床検査会社や地方衛生研究所にも多数配備されている。ウイルスの全遺伝子を解読してデータベースに集積させ、変異株の発生やその伝播状況、薬剤耐性株の発生を追跡できるようになった。
今後の技術革新として、様々な場所(患者検体に加え、家畜やペットや野生動物、下水やあらゆる環境)から採取した様々なウイルスの遺伝子配列について、データベースに蓄積し、また病院の電子カルテネットワークと統合し、人工知能を用いて感染拡大のリスクや病原性の変化を予測する技術の開発が期待できる。
図1 SARS-CoV-2ゲノムサーベイランスによる国内の系統別検出状況
2023年1月以降に国内で検出された変異株を、それぞれ別の色で示してある。
WHOによる変異株リスク評価において注目すべき変異株(VOI)に指定された
“EG.5.1”、“HK.3”、“XBB1.5”、“XBB1.16”については図中に示した。
各週において検出数1%未満の系統は、まとめて“Others”とした。
本データには地方衛生研究所で解析された結果が含まれる。
(提供:国立感染症研究所 冨田有里子)