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コラム:編集後記 イグナッソ発刊開始19年目の誓い

2024年4月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

感染制御のための情報誌イグナッソは2004年に発刊を始めました。
当時を知る編集部のメンバーも少なくなってきましたが、今でもこれを発刊しつづける意義は継承され続けております。

読者の皆様の中には、ご存じない方も多いかと思いますが、「イグナッソ」という名前は、感染制御の父と言われた、ハンガリーの医師、1818~1865 イグナッツ・フィリップ・ゼンメルワイスにちなみ、付けられたものです(創刊号の先人たちの足跡で紹介されています)

1847年にゼンメルワイスは術前の手洗いを行うことで産褥熱の発症率が激減することを証明し、「医師は手指衛生を徹底してから次の治療に臨むべきだ」と主張しました。しかし、病原菌の存在すら知られていない当時、それが受け入れられることはありませんでした。

権威ある医師たちに糾弾されたゼンメルワイスは、1850年にウィーン総合病院から追放され、最後はウィーンの精神病院に入れられ職員からの暴行で負った傷が元で47歳にしてこの世を去ったと言われています。

「感染予防の天才であった」とゼンメルワイスが称賛されたのは、彼の死後60年も経ってからで、今日ではゼンメルワイスは「病院衛生と消毒の現代的理論の父」または「院内感染予防のパイオニア」と称されています。生前は、壮絶な人生を送ったゼンメルワイスでしたが、科学者として真実を追求したゼンメルワイスの生き様に敬意を表さざるを得ません。

感染症関連製品を販売している我々ですが、実は発刊前までは、感染制御に関わる分野の経験や知識が乏しかったことが、この活動を始めた理由の一つでもありました。感染制御のプロフェッショナルの皆様からの生の情報やご意見、活動の実態からくるノウハウを直接お聞きできたことで、企業にありがちな押し付けがましい理想論や、間違った戦略思考を避けることができ、その時代時代に適合した、適切な活動プランを策定することができたのではないかと思います。

イグナッソは企業が運営する情報誌であることから、読者の皆様にも一定のバイアスがかかることは承知で始めた活動でした。そのため、企業ロゴ以外には宣伝要素を一切省き、自企業に有利になるような内容も可能な限り避けてきました。この考え方は現在も継続しており、これからも変わることはありません。

2017年、一企業である私たちが「薬剤耐性(AMR)対策普及啓発活動表彰」において、「薬剤耐性へらそう!」応援大使賞を受賞しました。これまでの努力が報われた瞬間ではありましたが、同時にさらに良い情報誌にしなければならないという使命感とプレッシャーを感じたのも事実です。他の情報誌に比べ発刊数は多くはありませんが、多くの読者の方々から寄せられたフィードバックは非常に好意的でしたし、「参考になりました」といった声を多くいただけたことには本当に勇気づけられました。

新型コロナパンデミックの試練の中で、私たちはイグナッソの発刊活動を継続させる真の意味と目的をあらためて感じることができました。感染症に立ち向かう皆様の勇気と決断に心から敬意を表します。私たちの活動は地道で控えめかもしれませんが、今一度ゼンメルワイスの生きざまを見習い、我々の立場でできることを継続し続ます。そして、未来の感染症対策の礎に一石を投じられることを願うとともに、これからも皆様と共に歩んでいくことを改めて誓いたいと思います。

(文責:イグナッソ編集部 瀬野)
イグナッツ・フィリップ・ゼンメルワイス
イグナッツ・フィリップ・ゼンメルワイス
(Ignaz Philipp Semmelweis 1818~1865)
写真は日本赤十字社医療センター(東京都)に建てられた胸像