膵癌患者における生体試料を用いたctDNA遺伝子解析の取り組み
~診療施設併設型バイオバンク利用の現状と実際~
演者:吉田 龍一 先生 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学講座
講演概要:
膵癌は現在でも極めて予後不良な難治癌であり、近年膵癌に対する抗腫瘍効果の高い化学療法が実臨床に導入されたが、最適なレジメンや治療期間は未だ不明である。膵癌の手術適応は、現状では画像診断に基づいて判断しているが、分子生物学的な悪性度を加味した治療アルゴリズムではないため一定の割合で早期再発死亡が生じる。究極の減量療法である外科的切除と新規化学療法の合理的な組み合わせが膵癌治療戦略上の鍵であるが、切除すべきか否か(術後再発高リスクの患者の選別)や切除の至適タイミングの判断指標となるバイオマーカーが存在しないことが問題であり解決すべき喫緊の課題である。
岡山大学病院では2015年4月から院内にバイオバンクが稼働した。「診療施設併設型バイオバンク」として高品質且つリアルタイムな診療情報と直結した生体試料の利用が可能であり、我々は2016年より膵癌患者治療経過中の経時的な血液・腹水・尿試料の保管を行ってきた。当院では年間約100例の新規膵癌患者の治療を行っており、我々は岡山大学病院バイオバンクに保存されている膵癌患者の術前・術後の血液試料を用いて、循環血液中の腫瘍由来DNAにおけるKRAS遺伝子変異(mKRAS-ctDNA)の検出を試みてきた。手術や化学療法前後のmKRAS-ctDNAと予後との関連を探索的に検証することで前述の臨床的課題の解決の糸口を見出し、膵癌治療における外科切除の可否や化学療法中の適切な切除時期を決定可能な膵癌治療アルゴリズムを構築したいと考えている。
本発表では岡山大学バイオバンクと連携した我々の最近の取り組みを紹介する。