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君津中央病院
薬剤感受性迅速報告で臨床貢献果たす

全自動同定感受性検査システム活用など通じて組織も活性化
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2014年1月21日
高橋弘志氏
高橋弘志氏
 千葉県木更津市の国保直営総合病院君津中央病院(鈴木紀彰病院長)の臨床検査科微生物検査室では、2003年から、日本ベクトン・ディッキンソンが販売している全自動同定感受性検査システム「BDフェニックス」を導入、感染症情報システムとの組み合わせで、365日対応での細菌同定試験や薬剤感受性試験などの結果の迅速報告を実現している。3次救急も担う同病院にとって、肺炎をはじめとした急性感染症の的確な治療につながる迅速報告は、臨床医からの評価も高い。微生物検査部門からの迅速報告の意義やシステムの有効活用について、臨床検査科 科長補佐の高橋弘志氏に話を聞いた。
微生物検査室の皆さん
微生物検査室の皆さん
 君津中央病院は、千葉県中央部から南部に位置する木更津市、君津市、富津市、袖ヶ浦市の4市で組織する君津中央病院企業団が運営。感染症病床(6床)や結核病床(18床)などを含む637床を有する地域の中核病院。3次救急医療機関としてドクターヘリの運用も行っている。
 微生物検査室では2003年の病院新築を機に、感染制御支援システムの導入と合わせてBDフェニックスの運用を開始した。BDフェニックスは、細菌の同定や薬剤(抗菌薬)感受性を、発光ダイオードによる可視光線や、UV光源(紫外線)で菌液内での反応を20分ごとにCCD素子で測定。装置内のデータベースと反応測定の結果を参照、比較してアルゴリズム解析することで、細菌の同定、薬剤感受性検査を自動的に行えるシステム。同社製の感染制御支援システムと組み合わせることで、一刻を争う感染症治療での診療支援につなげている。
院内で運用しているWebを活用した感染制御支援システム
院内で運用しているWebを活用した感染制御支援システム
 高橋氏は、微生物検査室における一連のシステム構築の取り組みについて「近隣の医療機関でも検査部門のブランチラボへの転換が進んでいたこと」をそのきっかけに挙げる。
 診療支援の向上策の一つとして検査部門では、生化学的検査や一般検査などでの診療前検査による迅速報告が進んだが、これまで時間がかかるといわれていた微生物検査部門で、同様な報告の迅速化が図れないかを検討してきた。
 病院の新築にあたってすでに他社製の全自動同定感受性検査装置が稼働していたが、感染制御支援システム導入に合わせて、BDフェニックスを組み合わせた運用を始めた。BDフェニックスは、同定検査や薬剤感受性検査の正確性を他社のシステムと比較して評価。正確性だけでなく、検査結果出力の早さも検討し、迅速報告システムとしての活用を決めた。

薬剤感受性報告までのスケジュールを大幅短縮

 BDフェニックスは、グラム陽性菌のうち、腸球菌で平均3時間以内、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含むブドウ球菌については平均5時間以内で同定可能で、グラム陰性桿菌の腸内細菌でも平均3時間程度で同定できる。また、薬剤感受性についても平均10時間から15時間程度で試験終了でき、MRSAや、ESBL等の耐性菌は平均6時間程度で耐性判断が可能で、中間報告が可能である。これまでの血液培養検査から同定試験、薬剤感受性試験といった一連の流れで3〜4日程度かかるとされる時間を大幅に短縮できる。臨床側にとっては抗菌薬の適切な選択につながり、治療の向上とともに、経済的なメリットも大きい。
 ただ、こうしたシステム導入で可能となる報告までの時間短縮メリットを生かすには、基本的に日勤帯で動く検査室業務の見直しが必須。一方で限られた人員で効果的に永続的に、迅速報告という臨床支援を提供する意味からは、効率的な報告体制も必要だ。
 この点を踏まえ微生物検査室では、午前中にBDフェニックスに検体をセッティングすることで検体提出の翌日に同定が報告できるように、午前7時30分からの勤務シフトを設定した。このシフト設定で午前中の早い時間に装置へのセッティングができ、同定だけでなく、感受性試験の結果についても中間報告が可能になった。
 BDフェニックスでの解析結果については感染症情報システムに測定が終了した薬剤毎にリアルタイムに反映されるため、夜間帯など微生物検査室の職員が不在の場合でも、臨床医は確認が可能。確定できた検査結果ではない中間報告であっても、臨床にとっては有用な情報となる。このため結果的に誤判定でも、納得を得てもらう関係づくりも進めた。装置による正確性だけでなく、用手法によって行う検査精度も微生物検査室の担当者ごとに数値化して提示。誤判定の可能性を念頭に置いた上での中間報告結果の活用が可能な体制を確立した。
 高橋氏は、多くの医療機関の検査部門では、検査結果が確定するまでデータを提供することはないとした上で、「技師個々人についてコンタミネーション率や顕微鏡観察結果などの精度を数値化して示している。中間報告のデータはいわゆる垂れ流しになるが、データ精度の根拠を提示することで、精度を考慮した上でのデータ活用が可能になる」と話す。
 臨床医サイドでも、感染症情報システムを通じてリアルタイムに報告されるデータへの意識が向上した。臨床側の意識の高まりも後押しするかたちで、緊急を要するような感受性試験データの報告については高橋氏をはじめとする微生物検査室の職員が夜間・休日に出勤して薬剤感受性試験の結果を報告している。その結果、早ければ翌日の薬剤感受性試験結果までの報告が可能になった。
君津中央病院における微生物検査業務の流れ

カルバペネム耐性腸内細菌の感染拡大抑止に寄与

 迅速報告体制の確立は、薬剤耐性菌による院内感染拡大防止にもつながっている。13年5月には、救急搬送され、入院対応となった患者の血液培養検査からカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)を検出している。
 CREは、カルバペネム系抗菌薬をはじめとする広域β-ラクタム系抗菌薬の耐性を持ち、フルオロキノロン系などの薬剤にも多剤耐性を獲得していることがあり、治療が困難になるなどとして、米国立疾病管理センター(CDC)が警告を発したほか、厚生労働省も注意を促す通知を出していた。
 日本で血液培養結果からIMP-1型メタロ-β-ラクタマーゼ産生型CREの検出はまれなケースで、BDフェニックスなどの活用により半日程度で特定ができ、個室管理に切り替えるなどの対応を行い、感染拡大を防いだ。
 高橋氏は「迅速報告システムの活用で事なきを得た。検査精度は100%を保証するものではないが、特定が数日遅れていれば、院内感染が広がっていたのではないか」と振り返る。ゴールデンウイーク期間中の出来事でもあり、微生物検査室の365日運用が、感染拡大防止に生きた格好だ。

臨床支援がモチベーションの維持に

 生き残りを契機にした微生物検査室の臨床支援だが、これまでの実績の積み重ねで院内での重要性も高まってきている。診療科への情報提供だけでなく、臨床医とのコミュニケーションも円滑に行えているという。高橋氏は院内会議での、微生物検査室への評価について、各担当者にも伝え、日常業務へのモチベーションの維持・向上につなげている。  BDフェニックスの活用などを通じた積極的な臨床支援が、組織的なモチベーションにつながる好循環を生み出しているといえそうだ。