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CPO・AS活動などの知見共有 ~専門医ら5人が報告~

2019年 BD関西エキスパートセミナーより
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2019年8月1日

左:京都橘大学 健康科学部臨床検査学科 中村竜也氏
右:一般財団法人住友病院 臨床検査技術科 幸福知己氏

 2019年 BD関西エキスパートセミナー(日本ベクトン・ディッキンソン主催)は6月15日、大阪市で開かれた。一般演題3題のほか、招請講演、特別講演各1題があり、CPO(カルバペネマーゼ産生菌)検出やAS(抗菌薬適正使用支援)活動など微生物検査を巡る昨今の話題に耳を傾けた。
 座長は、一般演題と招請講演を京都橘大学 健康科学部臨床検査学科の中村竜也氏、特別講演を一般財団法人住友病院 臨床検査技術科の幸福知己氏がそれぞれ務めた。

質量分析装置+ BD フェニックス™ M50、2日目に最終報告

一般演題 演題1 「質量分析とM50の導入におけるワークフローの変更と効果」
神戸市立医療センター中央市民病院 臨床検査技術部 奈須 聖子氏
奈須氏
奈須氏
 神戸市立医療センター中央市民病院臨床検査技術部は2018年10月、質量分析装置と、全自動同定感受性検査システム「BDフェニックス™ M50」2台を新規に導入した。同部の奈須聖子氏は、装置導入後のワークフローの変化などを報告し、特に血液培養においてサブカルチャーの開始から同定・感受性検査の最終報告までの期間が2日間へと最大1日短縮し、従来より早いタイミングで適切な抗菌薬選択・変更が可能になったと指摘した。
 併設する救命救急センターは救急車搬送が年1万人超と多く、厚生労働省が毎年行う機能評価結果では5年連続で全国トップの座を守る。
 微生物検査は一般細菌で月平均3400件。血液培養は月平均1700件と全国有数の多さで、半数を救急科が占める。
 血液培養は従来、1日目にグラム染色結果を、2日目にディスク法による中間結果をそれぞれ報告し、最終判定・報告は3日目以降になった。装置導入後はワークフローが変わり、1日目に質量分析直接法による結果を報告し、サブカルチャーで一定の発育があれば夕方にM50に装填。M50は4~16時間で結果が出るため、2日目朝には感受性検査の結果が報告できるようになった。
 奈須氏は、装置導入に対する医師の声を報告し、血液培養直接法による菌名報告により治療方針が決まる場合があるとの評価の一方、菌名報告だけでは抗菌薬変更はできないとの意見も多いとして、感受性検査の迅速報告が重要なことを指摘。装置導入後は血液培養陽性の翌日に最終報告でき、「適切な抗菌薬選択までの時間、AST介入までの時間を短縮できた」と述べた。

「培養約3時間で耐性判定」血培に有用

一般演題 演題2 「迅速マイクロコロニー検出法を用いた血液培養における耐性菌の迅速検出」
公立那賀病院 臨床検査科 口広 智一氏

口広氏
 公立那賀病院臨床検査科の口広智一氏は、血液培養で感染症治療上重要な耐性菌を簡易に検出するための「迅速マイクロコロニー検出法」の有用性について報告した。目的とする薬剤耐性を約3時間で判定できる迅速・簡便な検出法だとし、中小規模病院などでもAS活動に貢献することを指摘した。
 培養液のサブカルチャーにおいて、陽性対照とする非選択培地(BTB培地など)のほかに、検出目的に応じた選択培地を用いて画線培養し、2〜4時間後に培地の裏面から倍率100倍で直接、マイクロコロニー(微小集落)の有無を観察する。グラム陽性球菌(GPC)でのメチシリン耐性、グラム陰性桿菌(GNR)での第3世代セファロスポリン系耐性、カルバペネム系耐性の3つの迅速検出を狙う。特殊な装置や機器が不要で費用対効果に優れるのが特徴。
 2017年4月からの2年間にGPCを認めた臨床検体102株で検討したところ、オキサシリン・セフォキシチンの感受性と一致し、感度、特異度ともに100%を達成した。
 GNRの場合、ESBL培地において集落形成のないフィラメント化を呈するケースが多く、陰性判定とする。17年4月から2年間にGNRを認めた臨床検体193株について、セフトリアキソン・セフタジジム、イミペネム・メロペネムの感受性と比較したところ、いずれも感度は100%となり、特異度はそれぞれ96.8%、93.7%だった。
 口広氏は、耐性菌検出培地と顕微鏡があれば実施できるため「中小規模施設においても実施可能で、汎用性の高い方法」と説明。同病院で有用だった3例を報告し、AMR対策やAS活動に貢献できるとした。

BD フェニックス™ CPOパネルでCPE検出が1日短縮

一般演題 演題3 「CPOパネルで高まるカルバペネマーゼ産生菌検出戦略の頑健性」
東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 青木 弘太郎氏

青木氏
 東邦大学医学部微生物・感染症学講座の青木弘太郎氏は、全自動同定感受性検査システム「BDフェニックス」専用のグラム陰性菌用CPOパネルについて報告した。菌種同定質量分析装置とともにCPOパネルを日常検査に導入することで、検査2日目にはカルバペネマーゼ産生性が判定でき、従来法より1日短縮すると指摘した。
 CPOパネルは、生化学的菌種同定と感受性試験、CPO推定を同時に行う国内初の試薬で、メロペネムのMIC 0.25~1mg/Lの株の検出が重要だとしている4学会連携提案に対応し同MIC値測定下限を0.125mg/L以下としたのが特徴。CPO推定、カルバペネマーゼAmbler分類の結果が最短6時間で得られる。
 青木氏は、CPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌)122株の検討の結果、メロペネムのMIC 2mg/L未満が62%(76株)に上り、キードラッグをラタモキセフにしてMIC 16mg/L以上としても13%(16株)が検査をすり抜けると指摘。メロペネムのMIC値測定下限を0.125mg/Lまで広げたCPOパネルが「4学会連携提案に応える」ものだとの認識を示した。
 その上で、供試菌全200株(うちCPE97株)を用いてCPOパネルを検討した結果を報告した。それによるとCPEに対する感度は97.9%、特異度は81.6%となり、陽性的中率は83.3%、陰性的中率は97.7%といずれも高い性能を示した。CPEの取りこぼしが2株あったが、ラタモキセフのMIC 16mg/Lを組み合わせることでゼロとなり、「取りこぼしなくスクリーニングできる」と述べた。
 Ambler分類については、クラスA 14株のうち13株、クラスB 71株の60株、クラスD 11株の10株をそれぞれ正しく判定した。青木氏は、海外報告を引用しながら「クラス分け的中率についても8割前後」との見方を示した。

一緒に考えるAS 活動が重要

招請講演 「チームで取り組む抗菌薬適正使用支援(AS)」
演者:京都府立医科大学附属病院 薬剤部 小阪 直史氏
座長:京都橘大学 健康科学部臨床検査学科 中村 竜也氏

小阪氏
小阪氏
 京都府立大学附属病院薬剤部の小阪直史氏は、薬剤師の立場からAS活動について講演した。AST(抗菌薬適正使用支援チーム)の有用性を指摘する一方、患者の状態によっては主治医がASTの意見を受け入れにくいことがあるとの見方を示し、そのような場合には主治医側の意向も考慮した治療・処方提案の重要性を述べた。
 講演で小阪氏は、カルバペネム系抗菌薬に特化したASP(抗菌薬適正使用プログラム)についてシンガポールの病院(830床)での検討結果を報告した(Antimicrob Agents Chemother.2017;61(9).e00736)。AST介入220例を、ASTの推奨を受け入れた群と拒否した群に分け、アウトカムを検討した。
 その結果、推奨を受け入れた患者群は拒否した群と比べ、カルバペネム系抗菌薬の使用量・投与期間が削減。推奨の受け入れは、30日以内の再入院、30日以内の感染症関連死亡率に影響しなかった。
 一方で、介入前からの処方継続、前回のカルバペネム投与歴、血圧低下(ショック)を呈する例では、推奨の受け入れが有意に低かったとし、主治医がカルバペネムから他剤への変更や中止の提案を受け入れるかどうかは、過去の治療暦や患者の状態などが影響するとの見方を示した。小阪氏は「たとえAST側の提案が適切であっても、相手の立場に立って一緒に考えるASでなければうまくいかないのではないか」と述べ、ケースに応じて主治医の立場を考慮した適正使用に関する提案が望まれるとの考えを示した。
投与法など薬剤師が提案
 カルバペネム系抗菌薬については、初のチエナマイシンからイミペネム、メロペネム、ドリペネムなどへと改良され、化学的な安定性確保や毒性軽減などのため1980年ごろから、新薬開発が進んできたことを説明。また、投与方法についても、PK/PD理論に基づく投与法として、延長点滴が重症例などで行われていることを示した。
 特に過大腎クリアランス(ARC)の場合や、浮腫などの細胞外液の増加、熱傷など浸出液の増加などがあれば、通常の投与量では有効血中濃度が維持できないことも抗菌薬投与上の注意点であることを説明。こうした「PK/PD理論」に基づく投与提案を臨床の場で薬剤師が行っていることを述べた。
 またカルバペネム系抗菌薬投与時の注意点として、抗てんかん剤バルプロ酸との併用が禁忌となっているほか、ビタミンK欠乏症が発現してワルファリンの効果が増強する恐れもあることから、ワルファリン投与患者ではPT-INRのモニターを強化する必要があるとした(図:メロペネム添付文書より引用)。

アレルギーの観点で「使いやすい薬剤」
 ペニシリンアレルギーにも触れ、米国では患者の1割がアレルギーを申告するものの、多くは下痢や嘔吐などでペニシリン投与が可能なことなどを説明。臨床上重要である、IgEによる即時型、Tリンパ球による遅延型の過敏症は5%未満だとしながらも、ペニシリンとセファロスポリンとの交差反応は約2%で起こるとし、薬剤師が問診で患者の状況などを詳しく確認し必要に応じて処方変更を医師に提案することなどを説明した。
 カルバペネム系抗菌薬は、他のベータラクタム系抗菌薬とは側鎖の化学構造式が異なり、交差アレルギー発現の報告も少ないとし、「ペニシリンアレルギーの既往のある患者に対しても選択肢として考慮できる」と述べた。
 その上で小阪氏は、薬剤師としてカルバペネム系抗菌薬のASを行う際には、患者病態や検出微生物の観点からカルバペネム系抗菌薬の投与すべき症例なのかどうか、投与法が最適であるかの2点を注意することを指摘した。

技師の技量発揮はコミュニケーションが鍵

特別講演 「職種間コミュニケーション~臨床に役立つ微生物検査のために~」
演者:藤田医科大学病院 感染症科 原田 壮平氏
座長:一般財団法人住友病院 臨床検査技術科 幸福 知己氏

原田氏
 藤田医科大学病院感染症科の原田壮平氏は、感染症専門医の立場から特別講演を行い、臨床に役立つ微生物検査を提供するためには職種間のコミュニケーションが重要であることを強調した。「コミュニケーションがなければ皆さんの技量を発揮できない」と述べ、臨床検査技師が自らの知識や技量を臨床に生かすためには、職種を超えた情報共有や適切な意思疎通が鍵になると訴えた。
 原田氏は講演で、臨床検査技師との情報交換が臨床上有用だった症例を紹介しつつ、微生物検査技師の知識や技能の発揮に期待を表明。その一方で「抗菌薬適正使用支援において、精度の高い検査の実施とともにその結果をどのように臨床判断につなげるかという視点が求められる」とも述べ、検査結果を治療につなげる視点を持つよう求めた。
 原田氏が臨床検査技師との連携が有用だった事例として挙げたのは、左肩皮下結節を自覚して受診した30代の生来健康な男性の症例。担当医からの臨床情報を手掛かりに検査技師が、真菌培養や抗酸菌培養の追加、一般細菌の培養期間延長を提案し、迅速発育抗酸菌による皮膚軟部組織感染症であることを突き止めたという。
 その後、外部機関に遺伝子同定と薬剤感受性試験を依頼し、Mycobacterium abscessusの亜種であるM.massilienseが原因菌だと分かった。両菌種の治療後の治癒率には有意差があり予後が大きく異なるため、亜種を区別することには臨床的な意義があるとし、外部検査であっても臨床に役立つ場合には積極的に活用すべきだと求めた。
初日のグラム染色が重要
 原田氏はまた、院内で発熱患者が出た際の治療の流れを解説した(図)。それによると医師はまず細菌感染症を疑って治療を開始しつつ、感染臓器を推測して培養検体を採取し検査をオーダーする。
 院内で発生する感染症の8割は、血管内カテーテル関連血流感染症や尿路感染症、院内肺炎、手術部位感染症、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症の5つのいずれかとする報告があり、MRSAを含む耐性グラム陽性菌、緑膿菌を含む耐性グラム陰性桿菌の関与が想定される。このため、治療初期においてカルバペネム系抗菌薬やバンコマイシンを安易に使わないようグラム染色が重要になるとし、「院内感染症の治療初日の抗菌薬適正使用にはグラム染色が必須」だと強調した。
 さらに、起因菌を突き止めるために、質の低い検体は再提出を求めることが必要だとも指摘。また、臨床的意義の低い検出微生物は報告しない工夫も適正使用に効果があるとした。

報告の仕方にも効果
 カルバペネム感受性をあえて隠して報告することが処方変更につながるケースがあるとし、結果報告の仕方を工夫する効果は海外論文でも示されているとした。「呼吸器常在菌のみ検出」との結果報告に「S.aureus/MRSAおよび緑膿菌検出なし」と付記することでde-escalationの実施が5.5倍増加したとの海外データを示した(Open Forum Infect Dis 2018;5: ofy162)。
 原田氏は、「医療機関の多剤耐性菌対策において微生物検査技師の知識・技術の発揮は生命線」と強調。発言の意図と根拠を明確にして臨床検査技師がICT・ASTカンファランスで積極的に発信することが抗菌薬適正使用につながるとの考えを示した。