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耐性菌迅速報告への新たな潮流
CPOパネルで検査フロー改善

2020 関東 BD エキスパート ウェブセミナー
2020年9月3日(木)17:30~19:30
THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2020年11月11日

「2020 関東BDエキスパートウェブセミナー 」(日本ベクトン・ディッキンソン主催)は9月3日、ウェブでのライブ配信により開かれた。新型コロナウイルス感染症についての質疑を途中挟んで、AMR対策やAST活動についての報告があった。従来のESBL産生菌を推定するESRテストに加え、カルバペネマーゼ産生菌を推定するCPO*テストが新たに搭載された、全自動同定感受性検査システム「BD フェニックス™ グラム陰性菌用CPOパネル」(CPOパネル)を導入し、検査フローの改善により耐性菌の早期検出が可能になった運用事例などが報告された。 *CPO: Carbapenemase-producing organisms カルバペネマーゼ産生菌

一般演題

座長:杏林大学 保健学部臨床検査技術学科 米谷 正太 氏

CPOパネル、最終報告1日以上早く

演題1 「カルバペネマーゼ産生菌への備え ~新パネルを活かしたルーチンワーク~」
国保直営総合病院 君津中央病院 検査科 微生物検査室 加地 大樹 氏
加地氏写真
加地氏
 国保君津中央病院(千葉県木更津市、660 床)の加地大樹氏は、CPOパネルを取り入れることで薬剤耐性菌検査の業務効率が上がるとし、社会的な必要性が増す新型コロナウイルス(COVID-19)の検査に対応するための環境整備につなげられるとの認識を示した。  CPOパネルは、感受性試験と同時にCPOの推定ができる国内初の試薬で、MEPMは希釈系列を0.125㎍/mLから搭載し、さらにTAZ/CTLZが測定できる特徴を持つ。  加地氏は海外文献を報告し、「MEPM > 0.125μg/mLを示した腸内細菌目細菌」190株を検査したところ感度89.4%、特異度66.7%で、日本では報告の少ないIMI型を除くと感度が99.7%になることなどを説明した(J Clin Microbiol 2018;56:e01043-18)。TAZ/PIPC、LMOX、MEPM の3剤を組み合わせると検出感度はさらに上がるとし、CPOパネルの有用性を示した。  検査フローについては、薬剤感受性検査と同時にCPOが推定できることから検査2日目に耐性菌疑いを報告でき、翌3日目には遺伝子検査や表現型試験などによる最終報告ができると説明。一般的なフローと比べて1日以上、最終結果報告が早まるとした。  同病院では血液培養検査に導入し、朝7時30分に出勤した早番の担当者が血培処理をした上で朝8時30分に同定検査とCPOパネルによる薬剤感受性検査を開始する。午後2時30分~3時ごろには耐性菌疑いが判明し、臨床に報告するとともに耐性菌の確認試験に入る。その後、翌日朝9時ごろまでには最終報告が完了するという。  加地氏は、薬剤感受性検査結果の7~8割のデータを検査当日に知ることができ、耐性菌確認の検査や院内感染対策が早期に実施できる利点を挙げ、翌日の勤務にも時間的・精神的な余裕ができることを指摘。この余裕をCOVID-19の検査に活用できると指摘した。

耐性菌検査フローの標準化に活用

演題2 「市中急性期病院におけるAMR 検出ワークフローの構築」
医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院 臨床検査・病理技術科 藏前 仁 氏
藏前氏
藏前氏
 刈谷豊田総合病院(愛知県刈谷市、704床)の藏前仁氏は、CPOパネルを採用し薬剤感受性検査から確認検査、結果報告までのCPE検出のフローを標準化したことを報告した。
 同病院は、年約1万台の救急車を受け入れる市中急性期病院。臨床検査科の臨床検査技師56人のうち、藏前氏含め4名のICMTがいるが、1名はICT専従へ異動、もう1名は産後休暇中、藏前氏自身は管理職のため実作業ができる時間は限られている。その中で現場は経験年数の浅い技師が奮闘しており、各技師の経験差が結果報告に影響しかねないことを課題に感じていたという。
 藏前氏は、「追加検査を含めた結果の解釈や判断に個人差がある」ことを取り組むべき課題に据え、対策として耐性菌検出の検査フローをマニュアル化。2020年1月までにマニュアルに基づき全ての担当技師が検査できるようにした。その際に策定した「CPE 確認検査簡易マニュアル」は改訂を重ね、現在第6版になった。
 CPOパネルの測定結果は良好(感度・特異度ともに82%)とし、マニュアルでは、CPOパネルの結果、TAZ/PIPC、LMOX、MEPMの3剤のMIC上昇を認めた場合、CPE(non-CRE)を疑うとし、CPE確定時などは「BD マックス™ 全自動核酸抽出増幅検査システム」で精査するなどと規定。CRE確定後は、微生物検査システムのコメント欄に「CPE」「non-CRE」を記載し、ICTに発生届を提出するとした。第6 版では、「困った場合はとにかく、上位技師へ相談」との一文を加えた。
 また、耐性菌検査の実施時には担当技師が結果入力画面に印を付け、診療報酬の「薬剤耐性菌検出」(50 点)が適切に請求できるよう、医事部門と情報共有している。
 藏前氏は、「(微生物検査室は)経験年数の浅い技師が多く、最も困難である薬剤感受性結果の判定から確認検査、結果報告までのフローを可能な限り、見える化した。CPOパネルやBD マックス™を仕組みに取り入れることで迅速、正確、効率の良いワークフローが構築できた」と結論付けた。

PCR機器選定や感染防御など話題に

Discussion 「ざっくばらんにCOVID-19 について知りたいこと」
亀田総合病院 臨床検査部 大塚 喜人 氏
順天堂大学医学部附属 順天堂医院 臨床検査部 三澤 成毅 氏
東邦大学 医学部微生物・感染症学講座 感染制御学分野 石井 良和 氏
亀田総合病院 臨床検査部 大塚 喜人 氏、順天堂大学医学部附属 順天堂医院 臨床検査部 三澤 成毅 氏、東邦大学 医学部微生物・感染症学講座 感染制御学分野 石井 良和 氏
(左から)大塚氏、三澤氏、石井氏
 ウェブセミナーでは途中、COVID-19についてのセッションがあった。亀田総合病院臨床検査部の大塚喜人氏を進行役に、東邦大学医学部微生物・感染症学講座の石井良和氏、順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床検査部の三澤成毅氏の2人が視聴者からの質問に答えた。
 COVID-19については厚生労働省が、PCR検査機器の導入費を補助する予算を計上。検査能力の拡大へ公的な補助を使った検査装置の整備が進む。大塚氏は、どの検査機器を選定すべきか悩む検査室もあるとして石井氏にアドバイスを求めた。
 石井氏は、検査精度と検査時間が相反関係にあることを指摘し、各機器の性能を理解し目的に応じて選定するよう指摘。「早く報告しなければいけない時はそういうキットを、きっちりと検出するときは高感度のキットにする使い分けが必要」とした。
 大塚氏と石井氏は、汎用のPCR検査装置を選ぶべきだとの意見で一致。大塚氏は「コロナ収束後も使える機器がいいのではないか」とし、石井氏も「自由にカスタマイズできる機器の方が先々のことを考えると有用」と同調した。
 話題は感染防御策にも。三澤氏は、ウイルスはBSL3、臨床検体はBSL2の取り扱いにするとした国立感染症研究所のルールに触れ、鼻咽頭拭い液や唾液検体は「少なくとも感染性が失われるまでは安全キャビネット内で操作する」と説明。一方、血液検体については、感染事例の報告はないとし、一般の検体と同じ扱いでいいとの認識を示した。
 質疑は、PCR検査と抗原検査の使い分け、抗体検査の意義などにも及んだ。

CPO検出、3剤活用で感度が上昇

教育講演「BD フェニックス™ CPO パネルの有用性と今後の展望」
座長:順天堂大学医学部附属 順天堂医院 臨床検査部 三澤 成毅 氏
演者:東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 感染制御学分野 石井 良和 氏
石井氏
石井氏
 東邦大学医学部微生物・感染症学講座の石井良和氏は教育講演を行い、細胞内のプラスミド上に耐性遺伝子の多くがあるCPOの検出がAMR対策上より重要だとし、CPOパネルにより漏れなくCPOを検出するアルゴリズムの開発が必要との考えを述べた。LMOX、MEPM、TAZ/PIPCの抗菌薬3剤の組み合わせは、高い検出感度が期待でき、スクリーニング検査として有用だとの認識を示した。
 CROは、ブレイクポイントでカルバペネム耐性を示すが、全ての菌が分解酵素カルバペネマーゼを産生するわけではなく、区別するためにカルバペネマーゼ産生株はCPOと呼ばれる。石井氏は、CPOのカルバペネマーゼ遺伝子の多くがプラスミド上に存在し、プラスミドによる薬剤耐性の拡散がより大きな問題であることを指摘。「われわれはCPOにより注意を払うべきだ」とした。
 感染症法に基づき報告されているCROの菌種は、Enterobacter cloacae、Klebsiella aerogenesがともに約3割を占めるが、後者のK. aerogenesのCPOは「私の知る限りほとんどない」。一方で、約1割のKlebsiella pneumoniaeEscherichia coliには「CPOがかなり含まれている」という。
(表)3抗菌薬による検出の試み
(表)3抗菌薬による検出の試み
 感染症法では、カルバペネム系薬のMIC値でCROを定義しているが、CPOは定まった検出方法がない。これまでは自動機器でCPOを検出することは困難とされていたが、CPOパネルが国内に初めて登場し可能になった。
 石井氏らは、LMOXのMIC値を用いたCPEのスクリーニング法を2017年に報告しているが、より検出感度を上げるため、MEPM とTAZ/PIPCを加えた抗菌薬3剤による検出方法を開発。LMOX 16mg/L以上、MEPM 4mg/L以上、TAZ/PIPC 128mg/L以上のいずれかを基準にしたところ、検討したCPE125株全てを検出したことを報告した(表)。
 石井氏はまた、日本臨床微生物学会精度管理委員会の事業についても報告した。全国からCPE、non-CPE計650株の提供を受け解析したところ、CROの29.5%がCPOだったことが分かった。カルバペネマーゼの遺伝子型はIMP型が97%とほとんどを占めるが、NDM-5型や、NDM-5型とOXA-48型を同時に産生する株もあった。
三澤氏
三澤氏
 また、スクリーニング基準抗菌薬を検討した結果、感染症法の届け出基準である「MEPM 2mg/L以上」の感度は55.7%にとどまる一方、「LMOX 16mg/L 以上、MEPM 4mg/L以上」や「LMOX 16mg/L 以上、MEPM 4mg/L以上、TAZ/PIPC 4/32mg/L以上」はともに感度100%となったとし、3剤の組み合わせの有用性を示した。
 CPOパネルの評価結果についても報告した。CPOパネルには、同定/感受性コンボパネル、フル感受性パネルの2つがあるが、このうちコンボパネルでCPE 100株を検査したところ偽陰性が4株(感度96%)、non-CPE100株を検査したところ偽陽性が3株(特異度97%)あった。フルパネルを使うとそれぞれ1株、3株となり、偽陰性が減った。
 石井氏は、「スクリーニング検査は陽性を漏らさず検出することが大切で、偽陽性が仮にあったとしても偽陰性を少なくすることが重要」とし、「検出アルゴリズムを改善することで漏らさずCPOを検出することが可能になる」と指摘。LMOX、MEPM、TAZ/PIPCの3剤を組み合わせた検出アルゴリズムが有用だとの認識を示した。

AST 「検査技師の役割大きい」

特別講演「感染症専門医が在籍しない地域病院のAST 活動 ~微生物検査室・臨床検査技師へ期待すること~」
座長:亀田総合病院 臨床検査部 大塚 喜人 氏
演者:青森県立中央病院 臨床検査部 北澤 淳一 氏
北澤氏
北澤氏
 青森県立中央病院(青森市、684床)臨床検査部・感染管理室の北澤淳一氏は特別講演で、感染症専門医が在籍しない自院でのAST活動などについて報告した。感染管理認定看護師や臨床検査技師などのチーム医療による活動の効果を示し、「臨床検査技師の役割は非常に大きい」と期待を示した。微生物検査の専門家として、業務改善や医療安全確保を提案することが望まれているとメッセージを送った。
 県内唯一の県立総合病院で、病床数は県内最多。うち5床が感染症病床で、第1種・第2種感染症指定医療機関の指定を受ける。臨床検査技師全45人のうち細菌検査室の担当は5人。また感染管理室は、看護師2人が専従し、医師3人(兼任)、薬剤師1人(同)、臨床検査技師1人(同)、事務員1人の体制となっている。
 感染管理認定看護師が2人に増員されたのを機に2011年、感染管理室が院内に設置されたが、その後、15年に感染症専門医が退官し不在になった。現在、ICT、ASTそれぞれのチームを組織し院内の感染管理に当たっており、臨床検査部では、無菌検体・非無菌検体からの耐性菌検出を毎月報告し、さらにMRSAなどを監視耐性菌としてモニタリングしている。
 ASTチームは、毎月40件前後の血液培養陽性を全例確認し、約2割にコンサルトや支援を行っているという。
表)黄色ブドウ球菌菌血症治療における Antimicrobial Stewardship Team介入の効果
(表)黄色ブドウ球菌菌血症治療における
Antimicrobial Stewardship Team介入の効果
 北澤氏は、黄色ブドウ球菌菌血症治療に対するAST活動の効果について報告し、介入前群(n=40)と介入後群(n= 40)との間で、心臓超音波検査の実施や血液培養の再検、適切な抗菌薬の14日以上投与が有意に改善したことを説明(表、日本環境感染学会誌 Vol.34 No.4 2019)。「感染症専門医がいない状況でも、薬剤師や臨床検査技師や看護師の協力を得てチーム医療で介入し、感染症の診療について良い結果を出そうと努力を続けている」と述べた。感染症専門医が在籍しない病院でもチーム医療による感染管理が可能だとし、「その中で臨床検査技師が果たす役割は大きく、技術を遺憾なく発揮してほしい」と期待を示した。
 北澤氏はまた、微生物検査室や臨床検査技師に期待することについても述べた。
 菌種同定や感受性試験の正確・迅速な結果報告に加え、「検査が適正に利用できる環境整備」への支援を挙げ、微生物検査の専門家として、微生物の情報を医師に伝えたり、業務改善や医療安全につながる新規技術を提案したりすることなどに期待を示した。
大塚氏
大塚氏
 具体例として、細菌検査担当の臨床検査技師の提案で19年7月から血液培養の24時間受付を開始したことを挙げた。以前は翌日朝まで室温保管となっていたが、緊急検査室の場所移動に伴う検査機器の更新で「BD バクテック™ FX40 システム」を導入。微生物検査室にある「BD バクテック™ FX システム」と併せた運用を取り入れ、夜勤・日勤帯でも血培検体を装填する運用を開始した。その結果、検体受け取りから陽性報告までの平均時間は、34時間(19年1月)から開始後、24時間(20年1月)に10時間短縮した。  また、全自動同定感受性検査システム「BD フェニックス™ M50」を導入し、以前の検査機器に比べ黄色ブドウ球菌で3~5時間、大腸菌では2時間程度、同定時間が短縮したことも示した。  さらに北澤氏は、若手の臨床検査技師の紹介がきっかけになり結核検査にLAMP法を導入した結果、時間外勤務が減少したことや、POT法を導入しMRSAや術後感染症多発時の感染管理などに有用だったことも報告した。  北澤氏は、微生物検査室や臨床検査技師に対し、検査の専門家として業務改善を提案することや、医師とのコミュニケーションを一層取るよう期待。「医療チームの専門家として意見を述べてほしい」とエールを送った。

販売名:BD バクテック™ FX40 システム(製造販売届出番号:07B1X00003000143)
販売名:BD フェニックス™ M50(製造販売届出番号:07B1X00003000159)
販売名:BD マックス™(製造販売届出番号:07B1X00003000125)
体外診断用医薬品
販売名:BD フェニックス™
( 製造販売届出番号:07A2X00012000301/製造販売承認番号:21400AMY00156000)
製造販売元:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社