アクティブサーベイランスを実施するためには、PCR検査などの検査が不可欠だ。医療機関などが必要と考えれば、誰でも検査を受けられるようにすることが望ましい。だが、国内の状況を見ると、なかなか検査の拡充が進んでいないという印象がある。栁原氏はその理由について次のように説明する。
「欧米の国々、さらには韓国などと比較しても検査数が少ないのは事実です。背景としては、日本にはこれまで、感染症の対策のために検査をするという土台がなかったといえます。というのも、韓国も含め海外の国々は、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)など致死率の高いウイルスの流行を経験してきました。このため、感染症をPCRなどの検査で隔離することの必要性を理解していたのです。一方で、日本では幸いといいますか、SARSやMERSの影響をほとんど受けませんでした。ただし、その分、準備が遅れていたのは間違いありません」
医療機関における検査に対する関心の度合いも低かった。機器や試薬を備えた医療機関が少なく、検査ができる医療機関は限られていた。さらに特筆すべきは知識や経験のある人材の不足だ。
「PCR検査における検体採取では、鼻の奥から採取する鼻咽頭・咽頭拭い液を用います。ここまでは看護師もできますが、その後の検査作業については経験豊富な臨床検査技師でなければできません。長崎大学では10年以上の経験のある技師が行っています。ただし、人材は一朝一夕に育てることができません。PCR検査数が少ないと政府に対する批判も起きましたが、増やしたくても急には増やせないのが実情です」
SARSやMERSを経験した諸外国では、検査に携わる人材の育成も継続的に行われていたという。日本は後れを取っているものの、その差を埋める取り組みも進んでいる。「最近では、検体に唾液を用いるPCR検査も認められる方向になっています。また、検査を全自動で行える機器も登場しています。もちろん、最終的な判断は人間が行うわけですが、全自動PCR検査機器は作業効率を大幅に向上させることができます」。