医療従事者の結核は古くは1928年にHeimbeckにより、結核の感染伝播が患者から医療従事者へ起こっていることが報告されているが、医療従事者の結核感染、発病のリスクが高いことが周知されるようになるまでに数十年間を要した。
結核の感染伝播は空気感染で起こることは広く知られている。感染性を決める因子については古くから、多数の研究がある。
まず患者の喀痰塗抹陽性例では陰性例に比較すると感染リスクは約1.7倍から10倍高く、また被感染者の全身的免疫状態も因子となる。
免疫システムが未発達の乳幼児、HIV感染者などは感染のリスクが高い。
また感染源との接触状況によってもリスクは異なる。換気の悪い狭い部屋での接触者感染のリスクが高い。また接触期間も長い者は短い者よりも感染のリスクは高い。
我が国における職業曝露による結核の研究では検査技師の結核発病は看護師、医師の約4倍、看護師は同年齢の女性の罹患率に比較して4倍高いことが報告されている。
職業感染を防止するためにはまず、管理運営、環境の管理、感染防御が必要である。
管理運営では病院、施設等では結核についての職員の教育を行うことと、院内感染防止委員会をもうけ、定期的に感染のリスクの評価、感染者の特定、感染者に対する発病予防投薬、発病者の早期発見に努めるべきである。また環境管理は感染性結核患者を収容する病室の空調の管理、飛沫核の発生するような手技を行う部屋の感染防止対策を行う。
感染性結核患者を隔離している部屋は外部に対し陰圧であることが望ましいが、室内に送り込む空気の量と排出する空気の量の差で差圧を作っており、部屋の密閉度が悪い場合、また部屋のドアの開閉が頻繁であるときには陰圧とならないので、注意を要する。
陰圧が保たれているかどうかは簡単にチェックできるので、必ずチェックすべきである。しかし陰圧室は室内で、患者のケアをする場合には何の防御にもならないので、感染性結核患者のケアをする場合にパーティクルレスピレーター(Particle Respirator)を装着する必要がある。
一般的にN95のマスクが用意されている。これは直径1μmの粒子を95%排除するマスクであるが、顔に密着していなければ、周りから空気が入り込むので効果が失われる。必ずfitness testを行い、漏れがないように装着する必要がある。気管支鏡を行う内視鏡室は密閉された部屋で行い、術者はパーティクルレスピレーターを装着することが要求される。
しかし米国では感染のリスクの高い状況では、poweredair-purifying respirator and air-lines respirator(PAPRs)(ポンプなどがついた顔前面を覆うマスク)を用いることが薦められている。また採痰やネブライザー等を用いて薬剤を吸入する場合にも、密閉した部屋で行う必要がある。最近は後から取り付けることができる採痰ブースが市販されている。
飛沫核が発生する室内の空気は必ずHEPAフィルターを通してから外部に排出するようにすべきである。
HEPAフィルターは直径0.3μm以上の粒子の99.97%を排除できるが、飛沫核が発生する室内からの空気は再循環させてはならない。また紫外線照射による殺菌も効果がある。飛沫核の殺菌にはUV‐C(波長253.7nm)が使われている。直接人に当たらないように室内の上部に設置する。
環境の整備やパーソナルレスピレーターの使用は費用がかかるので、感染のリスクの評価を行い、どのような設備を整え、どのようなレスピレーターを使用するかは院内感染対策委員会で決定されるべきである。
また職員の健康診断は、雇用時に結核の既往歴、接触歴、BCG接種歴、ツベルクリン反応の有無と結果を問診し、記録しておくべきである。
新しい感染が起こったかどうかをツベルクリン反応で決定することは日本では広範囲にBCG接種が行われているため、困難であるので、最近開発されたQuanti-FERON‐TB-2Gを用いた検査を採用することも考慮すべきであろう。
結核菌の感染が疑われた場合には発病予防のためにイソニアジドの6〜9カ月の投与を薦める。