図3:普段より感染防止のための手洗いの励行を勧める患者用リーフレット
Q:新型インフルエンザの流行には第二波が来ると言われていますが、どのような対応をお考えですか。
山本:通常の感染対策を徹底すれば十分だと考えていますので、季節性インフルエンザが流行しているときの対応と同じです。
わが国では、季節性インフルエンザの感染対策が十分に行われているとは言えませんから、その点は問題ですね。
まずはマスクの装着を徹底することです。外来の待合室では、インフルエンザと思われる患者さんとそうでない患者さんに2m以上の間隔をとり、衝立やカーテンなどで物理的に遮断する方法を考えていかなければなりません。こうした対策をしっかり行うことが、院内感染を予防する上で重要だと思います。
当院では、今回の新型インフルエンザ用の対応マニュアル*の初版を5 月1 日に作り、さらに事例を踏まえた上で大きく変更した第二版を6 月6 日に発行しました。
マスク着用については、初めは移行期であったために、通常はサージカルマスク、発熱外来勤務者はN95 マスクを着用してもらうことにしました。現在は、特にエアロゾルが拡散する行為以外はサージカルマスクで対応しています。
抗ウイルス薬予防投与については原則行いません。職員の健康管理に関しても、初版では発熱外来勤務者に対しては全員体温チェックをしましたが、今は患者さんと濃厚接触した者に限って行っています。
実習生や見学生については、毎朝体調管理簿に記入してもらうようにしています。学生のために、感染対策の教育を研修プログラムに入れています。マニュアルには疾患別の項目も盛り込まれており、妊婦、分娩時、透析患者や小児患者が入院してきたときの入院経路もマニュアルに記載しています。
また新型インフルエンザ感染予防に対する手洗いの励行を強化するため、患者さん用に、手洗いの大切さを知って頂くためのリーフレット(図3)を作っていますので、入院説明時にこれを使って、患者さんや患者さんの家族に説明しています。
院内感染対策が必要な市中感染の微生物が多いと考えられるので、患者さんも一緒になって感染管理に協力して頂くことも重要だと考えています。
Q:今回の新型インフルエンザの診断検査で用いる迅速検査では、検査を行うタイミングによって陽性にならないことがあるようですが、迅速検査の位置付けについてどのようにお考えですか。
山本:可能であれば迅速検査は行った方が良いと思います。今回の症例を解析している中で、小児患者さん、抗インフルエンザ薬服用中の患者さんや発症してから間もない患者さんでは、迅速検査が陽性になり難いことが分かりました。
発生症例が増えてくると、接触歴と臨床症状から新型インフルエンザかどうかの判断も可能ですが、A型かB型かはっきりさせ、インフルエンザウイルスの検出を視覚的に行うことは、患者さんへの十分な説明材料にもなります。
蔓延して患者さんの数が膨大になってきた場合、軽症の方は臨床診断のみで自宅療養してもらうようになるかもしれません。
今回のマニュアル改訂でも、患者さんへの検査説明書を挿入しています。A型であれば季節性か新型かになりますが、いずれにしても感染対策としてはワクチン接種以外大きな違いはありません。死亡率に大きな差は無いと思われますので、スタッフに対しても特別な対応はとらない予定です。
今回の新型インフルエンザの流行があってから、日常の感染対策に対する意識がより高くなりました。日常の感染対策をしっかり行うことが何より重要です。また、関連する診療科と協力して現場の状況に即したマニュアルを作っておくことは、事前のシミュレーションにもなりますし、いざという時の素早い判断をする上でも有用であることが改めて確認できました。