ESBL産生菌が発見された当初は、欧米を中心に高い検出率が見られ、特
K. pneumoniaeによる重症院内肺炎が問題であった。
その遺伝子型もTEMやSHVといったいわゆる欧米型といわれる型の報告例が多く存在した。一方、日本ではTOHO型(現在のCTX-M型)といわれるESBL産生菌が報告され、遺伝子型の分布においても欧米と日本では相違があった。現在では、欧米においても外来患者由来E. coliを中心にCTX-M型が多く報告されるようになっている。
近年、ESBLによる感染症は世界的にも増加傾向にあり、大規模サーベイランスの結果から、
E. coliの10%、
K.pneumoniaeの17%がESBL産生菌であったと報告されている。日本におけるESBL 産生菌の検出率はE. coli やP.mirabilisは高いが、
K. pneumoniaeは現状では低く、世界的な動向とは若干異なると考えられる。
近畿地区におけるサーベイランス(2008年11月〜2009年4月)でも
E . coli 7.5%、
K. pneumoniae 2.2% 、
P. mirabilis 12.8%の検出率であった。また、10年間(2000〜2009年)の推移をみても0.13%から5.96%と検出率が上昇している(図3)。
外来・入院別では、外来23.3%%、入院77.7%と入院で多く検出される傾向にある。しかし、近年外来においても検出率が上昇し(特に
E. coli)、ESBL産生菌の市中への拡散が懸念される。一方で、
K. pneumoniaeや
P. mirabilisは入院で多く検出される傾向にあり、院内における拡散への監視に重点を置く必要もある。
材料別では、尿からの分離頻度が最も高いが、近年、血液培養から検出されるケースも増加しており、感染対策だけでなく、治療薬選択にも大きな影響を及ぼすと考えられる。これら増加の背景には、抗菌薬適正使用によるESBL産生菌に有効なカルバペネム系薬の使用減少や、市中感染における経口第3世代セファロスポリン系薬、およびキノロン系薬の使用増加が考えられる。また、ESBL産生遺伝子が伝達可能なプラスミド上に存在するため、さらに拡散スピードが速くなっていることも考えられる。