表2. MRSA 感染例と非感染例の診療報酬比較
(資料提供を得た 5 施設全症例からの集計)
2008年度Methicillin-resistant Staphylococcus aureus 病院感染症サーベイランスより
H. Kobayashi, et al., 環境感染誌 Vol. 25 no 2, 2010
表2は、本邦におけるMRSA 感染症の診療報酬に対する影響について考察した数少ない文献からの引用である。これを見ると、MRSA感染例と非感染例では在院日数、総診療報酬/症例数が大きく異なることがわかる。
また、国民衛生の動向によると、1日平均新入院患者数は一般病床で 37,057(2007年)であり、この内、MRSA感染例の割合である0.6%(上記文献より)が罹患するとすれば、1日平均の新MRSA感染症例は222例となる。
表2を基にMRSA感染症例による余分な診療報酬を、非感染症例と比較し計算する。感染例1例に掛った診療費の平均58,744円×81.12日=4,765,313.3円から非感染例1例にかかった診療費の平均53,532円×15.05日=805,656.6円 を差し引いた金額(4,765,313.3円−805,656.6円=3,959,656.7円)がMRSA感染症1例に関わる超過医療費となる。
年間のMRSA感染症が原因の超過医療費は、1日平均の新MRSA感染症例数と 365日をかけたものとなり、3,959,656.7円(MRSA感染症1例分の超過医療費)×222人/日(1日の平均新 MRSA感染症例数)×365日=320,850.982,401円となり、日本全体で、約 3,200億円の超過医療費が掛っていると推定される。
MRSA感染の対応に多大な医療費が掛っていることは容易に想像できるが、日本の診療現場でMRSA 感染症を削減することによる経済効果、及びその他の効果については具体的に議論されていない。
現在の日本の診療報酬体系では、一入院当たりではなく入院一日当たりの医療費を算定できるので、MRSA感染症で入院日数が延びても極端な収益悪化にはならない可能性が高い。つまり、これまではMRSA感染症を削減する積極的なインセンティブがなかった。しかし、本年4月より感染防止対策加算が診療報酬体系に盛り込まれ、感染症防止重視の新しい方向性が示された。もちろん、患者にとってのQOL低下を招かないことが前提となることは、言うに及ばない。
また、英国での事例のごとく、本邦においても高品質の感染制御によりMRSA感染症が少ないことを病院のセールスポイントにすることも可能であろう。
MRSA感染を防ぎながらの効率の良い診療が病院経営に寄与することは明白である。次回、DPC病院における経済効果についてシミュレーションを試みる。
(文責:日本BD 天野泰彦)