図1 エピネット日本版の報告書式
エピネット日本版とEpisys109について
針刺し切創のサーベイランスに用いられている国際的な報告書式に、米国バージニア大学のJanine Jagger教授らによって開発されたEPINet™ があります。EPINet™はExposure Prevention Information Network の頭文字から名づけられています。文字通り「曝露予防」のための「情報」を「ネットワーク」化して対策に生かすことを狙いとしています。損傷予防疫学(Injury Epidemiology)という研究領域からこの書式は開発されています。
EPINet™は2010年現在、世界83か国、21言語に翻訳され、針刺し切創発生メカニズムの科学的知見の集約に貢献し、職業感染に苦しむ医療従事者の支援に活用されています
2)。日本では職業感染制御研究会により翻訳改訂され「エピネット日本版」が1994年に公開されました。エピネット日本版は「A : 針刺し・切創報告」と「B : 皮膚・粘膜汚染報告書」の2種で構成されます。また、これらの報告書式の情報を電子情報入力し、簡単な単純集計が可能なツールとしてMicrosoft Accessで作成された入力・分析ソフト「Episys109」も公開されています。いずれも職業感染制御研究会のホームページから無料で入手でき、(職業感染制御研究会 http://jrgoicp.umin.ac.jp/)2010年現在HP上で1500件以上ダウンロードされて、大学病院や一般病院で主に活用されています。
また、職業感染制御研究会は、電子カルテあるいは院内LAN を用いたエピネット日本版報告システム構築を推奨しており、一部の施設ではすでに活用しています。表1にはエピネット日本版の利点をまとめました。
表1 エピネット日本版の利点
- 針刺し切創、血液・体液曝露事例を短時間で要点を漏らさずに記録することができる
- 労働災害や公務災害の書類作成に利用できる情報を記録できる
- 自己記載式の報告書式であり本人が針刺し予防のための視点を学ぶことができる
- 全国データやネットワーク病院と比較ができるので、自分の病院のデータと全国データの差異から、優先対策を検討しやすい
- 公衆衛生の領域におけるインジャリ予防( 損傷予防) の視点から、疫学的な解析を行うことで対策の改善点が明らかにできる
- 無料で入手できる
エピネット日本版は、各質問項目の選択枝が多いので、初めて記入する際には戸惑いがあるという声を聞きます。記入にあたっては、トレーニングを受けた担当者の助言を受けなが
ら、記入するのがよいでしょう。また、感染管理者または労務担当者など担当者自身が、受傷者から聞き取りをし、記録することも正確な情報を整理するために重要です。
また、報告は徹底されデータは集めているが、データの分析・活用がされていないという声も聞きます。Episysは、職種別や器材別のクロス集計など様々な分析をすることができます。