医療関係者のB型肝炎予防については、2013年12月に改めて米国CDCからガイダンスが発表されている1)。
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus ; HBV)は血液媒介感染をする病原体としては最も感染力が強く、医療関連施設では比較的よくみられる針刺しや患者に使用した鋭利物による切創、血液・体液の粘膜への曝露、小さな外傷や皮膚炎など傷害された皮膚への曝露でも感染が成立する可能性がある。免疫のない感受性者がHBV陽性の血液による針刺しを起こした場合の感染率は約30%といわれている。したがって患者や患者の体液に触れる可能性のあるすべての医療関係者は、B型肝炎ワクチンを接種して、HBVに対する免疫を持つ必要がある。
接種の対象となる患者や患者の体液に触れる可能性のある医療関係者とは、下記のとおりである。すなわち、直接患者の医療・ケアに携わる職種としては、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語療法士、歯科衛生士、視能訓練士、放射線技師およびこれらの業務補助者や教育トレーニングを受ける者などがあげられ、患者の血液・体液に接触する可能性のある職種としては、臨床検査技師、臨床工学技士およびこれらの業務補助者、清掃業務従事者、洗濯・クリーニング業務従事者、給食業務従事者、患者の誘導や窓口業務に当たる事務職員、病院警備従事者、病院設備業務従事者、病院ボランティアなどがあげられる。おおよそ医療関連施設に勤務するすべての関係者にあたる。
B型肝炎ワクチンが定期接種として小児期に国民全員に接種されているという状況にない我が国では、HBVに対する免疫を持たない国民が多いため、医療関係者にあっては、就業(実習)前に自身のHBVに対する免疫の有無を確認し、免疫のない場合は、B型肝炎ワクチンの接種により免疫をつけておくことが重要である。
接種は初回投与に引き続き、1ヵ月後、6ヵ月後の3回投与するのを1シリーズとする(図2)。1シリーズの3回目のワクチン接種終了後、1~2ヵ月後にHBs抗体を測定し、陽性化の有無を確認し、10 mIU/mL以上に上昇している場合は免疫獲得と考えてよい。1シリーズのワクチン接種で40歳未満の医療従事者では約92%で、40歳以上では約84%で基準以上の抗体価を獲得したとの報告がある2)。1シリーズのワクチン接種後に基準以上の抗体価が獲得できなかった場合は、もう1シリーズの再接種が推奨されている1)。追加の1シリーズにより、再接種者の30〜50%が抗体を獲得できる3)。
2シリーズでも抗体陽性化が見られなかった場合はそれ以上の追加接種での陽性化率は低くなるため、ワクチン不応者として血液曝露に際しては厳重な対応と経過観察を行う。このような者がHBV陽性血への曝露があった場合、米国ガイドラインでは抗HBs人免疫グロブリンを、直後と1ヵ月後の2回接種を推奨している1)。
一度抗体が獲得されれば、その後は長期にわたり発症予防効果が続く。また経年により抗体価が基準値以下に低下した場合も発症予防効果は続くため、追加接種は不要とされている1)。
なおワクチン不応者や経年により抗体価が基準値以下に低下した者に対して、追加接種を行うことは、それにより被接種者に不利益となる事象が起きる訳ではないので、希望があった場合に各施設の判断で追加接種を実施することに特に問題はないと考える。