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はじめに
世界的な薬剤耐性菌の増加を背景に世界保健機関(WHO)が2015年に薬剤耐性(AMR)対策のグローバルアクションプラン1)を発表し、それを受けて日本政府は薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2)を2016年4月に発表した。現在各方面で進められているさまざまな対策はこのアクションプランに基づいたものも多い。
このアクションプランは6分野に分けて記載されている。最初の項目は「普及啓発・教育」となっており、目標は「国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進する」と記載されている。すなわち、国民に加え、専門職である医療従事者への教育はAMR対策の大きな軸のひとつと位置づけられているのである。本稿では、教育の重要性について解説するとともに、現在使用できるリソースなどを紹介する。 AMR対策における医療従事者教育の重要性
AMR対策とは、突き詰めれば薬剤耐性菌を「作らないこと」と「広げないこと」に尽きる。「作らない」とは薬剤耐性菌を誘導、選択する機会を減らすことであり、感染症の適切な診断と治療、特に抗菌薬適正使用がそれにあたる。抗菌薬を使用したことのない臨床医はおそらくいないだろう。感染症は頻度の高い疾患群であり、決して感染症の専門家だけが診療にあたって済むものではない。「広げない」とは発生した薬剤耐性菌が周囲に広がらないよう対処していくことであり、これまでいわゆる院内感染対策として取り組まれてきたものである。院内感染対策は医療チーム全員がそれぞれの役割を果たさなくては成立しない。決して感染対策の専門家がいるだけでは解決しない。
このように薬剤耐性菌を「作らないこと」「広げないこと」のいずれにおいても、すべての医療従事者がその必要性や実際について理解し実践することが必須となる。その支えとなるのはやはり教育である。 院内感染対策の教育推進
(狭義の)院内感染対策については、定期的に研修会を行っている医療機関が多いことだろう。それを通じて手指衛生の重要性や標準予防策の考え方など、基本的な考え方は医療従事者に広く知られるようになった。しかし、たとえば手指衛生の遵守率はまだまだ理想からは程遠いという医療機関も多い。しばしば本人が適切に手指衛生できていると自覚する一方で客観的にはきわめて不十分なことがある。どのように問題に直面してもらうか、いかにして継続的に注意を喚起し続けるかなど、さまざまな病院の感染制御チーム(ICT)が教育的な取り組みを工夫しており、その good practice を共有し広げていくのが有用と考えられる。その場として学会などのネットワークが重要な役割を果たしてきたが、感染防止対策加算に基づくネットワークもその一翼を担っている。患者、利用者が地域内で複数の医療機関や福祉施設を行ったり来たりすることが多くなった。それだけに同じ地域の関係者が情報交換する機会をもつことは重要である。
感染症診療、抗菌薬適正使用の教育推進
抗菌薬適正使用を推進するための取り組みにはさまざまなものが含まれる。その中でも重要な位置を占めているのは医療従事者特に医師の教育である。研修医教育の一環として、あるいは抗菌薬適正使用支援チーム(AST)活動の一環として感染症診療・抗菌薬適正使用の教育プログラムを運用している病院が増えてきた。特に若手医師の教育は感染症診療を将来にわたって適切に行うためには欠かせないものと言える。しかし、教育のニーズが大きくなる一方で専門家(感染症専門医)は充足しているとは言えず、教育機会を作るのに苦労している病院もあることだろう。
感染症専門医を「共有」するのはそのような状況を打開する方法の一つとなるかもしれない。専門医が定期的に医療機関を訪問し、そこで教育的な活動を行うというものである。筆者はこれまで複数の医療機関に関わってきた。診断や治療に難渋している症例のコンサルテーションはもちろんのこと、症例の振り返りやレクチャーなど、状況に応じて専門家を(良い意味で)利用できれば教育効果は高い。もちろん重篤な感染症患者はいつ発生するかわからないし、そのタイミングで専門医が来訪するとは限らない。しかし、日頃から顔の見えている関係ができていれば電話やメールなどを用いてコミュニケーションをとることは容易である。筆者は1ヵ月から2ヵ月に1回程度の頻度で複数の医療機関を訪問してきたが、テキストだけでは伝わりにくいノウハウを共有することができ、専門医にとってもさまざまな症例を通じて学ぶことができる方法だと感じている。 感染症専門医にアクセスできない医療機関ではどのように進めていけばよいのだろうか。ICT、ASTを中心に取り組んでいる医療機関の中には臨床感染症の専門家不在に悩んでいるところもあることだろう。幸いここ10年ほどで良質な感染症の書物はずいぶん多くなった。専門学会もセミナーを開催するなど、学ぶことができる機会は増えている。これらを上手に利用してICT、ASTのレベルアップを図りたい。 AMR臨床リファレンスセンターによる教育リソース
AMR臨床リファレンスセンターでは全国各地で主催セミナーを行っている。2018年度は大きく分けて2つのプログラムを用意している(表1)。AMR対策臨床セミナーは当センタースタッフと地域の専門家が組んでAMR対策について解説するものであり、広くさまざまな医療従事者を対象としている。かぜ診療ブラッシュアップコースは医師を対象に、一般的ながら奥深い「かぜ」の診療についてじっくり学んでもらえるコースとなっている。それぞれのコースの詳細は決まりしだい情報サイト(http://amr.ncgm.go.jp/)などで公開している。お近くでのセミナーにぜひ参加いただきたい。
地理的、時間的な要因からセミナーに参加できないためeラーニングがほしいとの要望が多かった。そこで、いつでも学ぶことができるeラーニングシステム「AMRラーニング」を2018年6月に開設した(https://amrlearning.ncgm.go.jp/)。2018年12月現在3種類のコースを用意し、ニーズに応じて学ぶことができるようになっている。関心のある方はぜひ登録していただきたい。今後さらに内容を充実させていく予定である。 手指衛生は院内感染対策としてもAMR対策としても重要である。折に触れてその重要性を医療従事者に知らせていくことが大切となる。世界保健機関(WHO)では毎年5月5日を手指衛生の日と定めてキャンペーンを行っている。日本では大型連休と重なるためこれまであまり注目されてこなかったが、2018年はAMR臨床リファレンスセンターと日本集中治療医学会が協力して日本語版ポスターを作成し、学会関連の医療機関に配布した(図1)。ポスターは情報サイトからPDFでダウンロードし利用できる。 AMR臨床リファレンスセンターでは各種のポスターやリーフレット、動画などを作成している(図2および3)。これらは受診者を含めた一般市民を主な対象として作成しているが、医療従事者にとっても注意喚起になるし、それによって重要性を認識することもあるだろう。医療従事者も市民の一員である。一般市民に広くAMR対策について知ってもらい認知度を上げていくための試みは、そのまま医療従事者の教育にもつながるはずだ。 今後の展開
より多くの医療機関でAST活動がスタートし、専門性の高い取り組みが求められている。一方、AST活動やICT活動に直接関わらない医療従事者にもAMR対策について広く知ってもらい底上げを図っていくことが重要である。医療従事者の教育はこの両者を意識しながら進めていく必要がある。
文献
1.WHO | Global action plan on antimicrobial resistance [Internet]. WHO.
Available from: http://www.who.int/antimicrobial-resistance/publications/global-action-plan/en/ 2.薬剤耐性(AMR)対策について |厚生労働省 [Internet]. Available from: http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html |