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病院の中での医療廃棄物適正処理と感染対策

職業感染対策実践レポート
2019年3月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

国立がん研究センター中央病院 副看護部長 感染症看護専門看護師 平松 玉江
国立がん研究センター中央病院 副看護部長 感染症看護専門看護師
平松 玉江

はじめに

 病院等医療機関から排出される廃棄物は、紙くず類、プラスチック、ガラス・注射針等の鋭利器材および血液や体液を含むガーゼ等や臓器に至るまで多種多様である。そのため現場では廃棄物分別の正しい知識を習得していないと、どこに何を廃棄すべきか悩む原因となるだけでなく、針刺しや切創等の事故にもつながりかねない。また、近年では抗がん剤曝露の問題がクローズアップされており、不適切な廃棄物処理により抗がん剤曝露の可能性も危惧される。本稿では廃棄物の区分と、職業感染対策の視点での感染性廃棄物、抗がん剤廃棄物の取り扱いに焦点をあて述べる。

廃棄物の区分

 わが国では1971年に『廃棄物の処理及び清掃に関する法律』(以下、廃棄物処理法)が制定され、「一般廃棄物」と「産業廃棄物」が区分されるようになった1)。
 「産業廃棄物」は事業活動に伴って排出される燃え殻、汚泥、廃油、廃アルカリ、廃プラスチック類その他法令で定める廃棄物であり(廃棄物処理法施行令第2条)、一般廃棄物は紙くず等一般家庭から排出される廃棄物をいう。さらに廃棄物の区分においては、経済社会の拡大等に伴う廃棄物排出量の増大や廃棄物の多様化、不法投棄等の不適正処理の問題を背景として、1992年廃棄物処理法の一部改正(平成4年8月13日通知厚生省生衛736号)により、特別管理廃棄物制度が導入された2)。この制度の「特別管理廃棄物」とは“爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物”と示され、さらに「特別管理一般廃棄物」、「特別管理産業廃棄物」に分類される。
 一般廃棄物、特別管理一般廃棄物は市町村が処理計画を策定して自ら適正に処理する責務があるが、市町村によっては処理能力を有していないところもあるため、医療機関等では市町村が行っている処理体制を確認の上、自ら処理するか、処理業者に委託するかの責務が求められる3)。特別管理産業廃棄物を含む産業廃棄物については排出元になる医療機関等が自らの責任で処理する。この場合も自ら処理するか、都道府県知事の許可を得た産業廃棄物処理業者に委託する4)

感染性廃棄物の取り扱い

図 感染性廃棄物判断フロー3)抜粋
図 感染性廃棄物判断フロー3)抜粋
 感染性廃棄物とは“医療関係機関等から生じ、人が感染し、もしくは感染する恐れのある病原体が含まれ、もしくは付着している廃棄物又はこれらの恐れのある廃棄物”と定められている3)。感染性廃棄物は前述のように特別管理廃棄物に含まれ、感染性一般廃棄物、感染性産業廃棄物に区分される。しかし、医療現場ではこの両者を区分して廃棄はせず、廃棄する医療廃棄物が感染性か、非感染性かを判断し、感染性と判断したものを感染性廃棄物として分別、保管、運搬、処理を行っている。感染性の判断については『廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル』に則り、形状、排出場所、感染症の種類について3つのSTEPで判断する(図)。また、感染性廃棄物を収納する容器は、密閉できること、収納しやすいこと、損傷しにくいことが定められており(施行規則第1条10)4)、取り扱う者への注意喚起として感染性廃棄物の形状がわかるように国際的に共通のバイオハザードマークを使用し、それぞれの形状に適した梱包容器が使用される(表)。
 当院では、赤色ハザードマークを表示した液体や泥状物専用の感染性廃棄物容器は使用していない。黄色ハザードマークを表示した鋭利器材を廃棄するための耐貫通性容器が、液体も漏れることのない密閉容器であるため、液体や泥状物も一緒に廃棄している。また、血液が付着したガーゼ等の固形物を廃棄するため、橙色ハザードマークを表示した蓋付の段ボール容器を使用している。感染性廃棄物容器には、必ず蓋がついていること、蓋は足で操作するペダルがついて開閉ができることを重視している。当院での感染性廃棄物容器を写真に示す。
表 バイオハザードマークと廃棄する形状・適した容器 写真 国立がん研究センター中央病院 の感染性廃棄物容器
左:表 バイオハザードマークと廃棄する形状・適した容器
右:写真 国立がん研究センター中央病院の感染性廃棄物容器
 感染性廃棄物においてよく議論にあがるのが、紙おむつ、尿コップ、血液の付着が不明な綿球やガーゼ等廃棄物の感染性の判断である。図のフローから判断すると非感染性廃棄物と判断できるものも少なくない。とくに紙おむつについては、家庭では一般廃棄物として扱っているのが現状である。当院では紙おむつや尿コップなどは感染性廃棄物として取り扱っている。同じ形態でありながら、形状、排出場所、感染症種類により感染性か、非感染性かを判断することは現場では混乱をきたしやすいことや、感染の可能性がないと断定はできないことから、すべて感染性廃棄物として処理している。

抗がん剤廃棄物の取り扱い

 2015年日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床腫瘍薬学会の3学会から発行された「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」により、抗がん剤を取り扱う医師、薬剤師、看護師らの抗がん剤曝露に対する意識は高まっている。がん治療における化学療法の進歩は目覚ましく、それに伴い医療従事者が取り扱う抗がん剤の種類や量も増加している。抗がん剤は、取り扱う医療従事者の健康にも影響を及ぼす薬剤(Hazardous Drugs: HD)であり、HDに関連する職業性曝露は、医療従事者だけではなく、リネン洗濯、薬剤運搬、清掃、廃棄物処理を扱うスタッフにも健康危害が生じる可能性がある。ガイドラインでは、調整時・投与過程で発生した高濃度のHDを含む可能性のある廃棄物は、薬剤こぼれを封じ込めるためにジッパー付きプラスチックバッグに入れて封をするとしている5)。またガイドラインの元になったCDC、NIOSH(National Institute of Occupational Safety and Health)ALERT「保健医療現場における抗腫瘍薬およびその他の危険な医薬品への職業性曝露の防止」では、HDの準備や管理によって生じる様々な廃棄物に注意すること、抗がん剤の含有が3%未満の廃棄物(針、空バイアル、手袋、ガウン)でも、その薬物に汚染された廃棄物から生じる揮発性、またはマイクロエアゾールの吸い込みによる曝露を防ぐために、黄色の化学療法廃棄物容器に廃棄することが示されている6)
 ISOPP(International Society of Oncology PharmacyPractitioners)ガイドラインでも、細胞毒性廃棄物の取り扱いについて示されており、廃棄物容器は衝撃に強く輸送中の外圧に耐えられる、硬くて丈夫な材料でつくられた、はっきりとマークされた専用容器に集めなければならないとしている7)。日本では抗がん剤専用の廃棄物容器はなく、法的整備もされていないことから、現状としては感染性廃棄物容器に廃棄している。当院では抗がん剤に使用した廃棄物は耐貫通性プラスチック容器に直接廃棄しているが、他の鋭利な器材である感染性廃棄物とは区別している。二重包装としてジッパー付きプラスチックバッグは用いておらず、二重で廃棄する操作により廃棄時の針刺しリスクが高まることから望ましくないと考えている。曝露のリスクと針刺しのリスク双方の視点で考え、検討するべきである。

おわりに

 廃棄物の取り扱いについては、廃棄物の発生から、廃棄、保管、運搬、最終処理までの間の安全性を考えた取り扱いと管理が重要であり、病院としての責務であると考える。
1) 環境省. 廃棄物・リサイクル対策>廃棄物処理の現状>「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)(accessed 2018-6-30).
 https://www.env.go.jp/recycle/waste/laws.html
2) 環境省. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について(依命通知) 公布日:平成4年8月13日.厚生省生衛736号(accessed 2018-6-30).
 http://www.env.go.jp/hourei/11/000502.html
3) 環境省. 廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル平成29年3月(accessed 2018-6-30).
 https://www.env.go.jp/recycle/misc/kansen-manual.pdf
4) 環境省. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(accessed 2018-6-30)
 http://www.env.go.jp/recycle/waste/sp_contr/03.html
5) がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン,日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会,金原出版,2006:64-65.
6) NIOSH ALERT(accessed 2018-6-30)
 https://www.cdc.gov/niosh/docs/2004-165/pdfs/2004-165.pdf
7) ISOPP Standards of Practice,Section15-Waste handling and patient excreta, J Oncol Pharm Practice ; 2007:66-69.