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はじめに家畜とは異なり、野生鳥獣肉では病原体を飼育段階で予防することは困難で、自然界における感染環の病原体に不十分な調理法では曝露されることとなる。病原体としては表1に示すものがあるが、ここでは寄生虫疾患に対象を絞り、広東住血線虫とあわせて記載する。養殖以外の魚類も広い意味での野生といえるが、今回は割愛する。 病原体
寄生虫疾患はまれなものが多く、専門家であっても遭遇することは少ない。寄生虫疾患は原虫によるものと蠕虫によるものに分類され、蠕虫はさらに線虫、吸虫、条虫に分けられる。原虫疾患ではトキソプラズマ、住肉胞子虫(サルコシスティス)が主なものである。トキソプラズマはジビエに限らず、ネコが終宿主であるため、通常診療においても遭遇する機会が多い。先天性トキソプラズマ症があるため注意が必要である。これに対して住肉胞子虫はシカなどの哺乳類のほか、鳥類、爬虫類にも寄生し、集団食中毒の原因となる。ジビエを用いたバーベキュー後の食中毒例では本原虫も念頭に置く必要がある。
蠕虫のうち線虫類ではトキソカラ、顎口虫、旋毛虫などが、吸虫類では肺吸虫、肝蛭が、条虫ではマンソン孤虫がある。多くのこれら寄生虫疾患はヒトが終宿主ではなく、幼虫移行症の形をとる場合が多い。表2に各寄生虫と症状、診断対策をまとめた。 対策はすべてに共通しており、加熱に限る。刺身、生食は禁である。これら食材を用いたまな板などの調理器具への注意も怠ってはいけない。厚生労働省等から野生鳥獣肉に関する指針が出ているので参考となる。 「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」の一部改正について(厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 令和3年4月1日 https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/attach/pdf/tonko-27.pdf) ジビエ(野生鳥獣の肉)の衛生管理(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000032628.html) 筆者もアフリカでキリン、シマウマ、インパラなどを喫食する機会があったが加熱したものであった。また、図に示したように、未知の病原体の存在も考慮する必要がある。SARS-CoV-2ウイルスも武漢の市場からコウモリやセンザンコウなどの野生動物を介して伝搬した可能性が示唆されており、感染リスクの認識をする必要がある。ジビエが未知の病原体の感染源となりうることはコロナ禍が示している。 広東住血線虫
広東住血線虫(Angiostrongylus cantonensis)は1935年に広東省で陳がラットから発見した線虫で1944年に台湾で野村とLimが好酸球性髄膜炎患者の髄液から見出した人獣共通感染症である(図1)。終宿主はラットで肺動脈に寄生する。ヒトは感染した陸生貝であるアフリカマイマイ(Achatina fulica)に接触することで経口的に感染する。アフリカマイマイは食用として導入されたものが野生化して沖縄や小笠原諸島に分布している。疾患の分布はアジア太平洋であったが、近年、米国やアフリカからも報告がある。症状は好酸球性髄膜炎である。診断は髄液中に3期幼虫を見つけるか、ELISAによる抗体検査、臨床診断である。治療法は対症療法に加えアルベンダゾールあるいはメベンダゾール投与となる。
まとめ |