現在、多くの施設で針刺し損傷防止機構付きペン型注入器用注射針(安全機構付き注射針)の効果が確認されており、我々も聖マリアンナ医科大学病院、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院、川崎市立多摩病院でのペン型注入器注射針に関する針刺し・切創発生件数を調査し、安全機構付き注射針の導入による医療従事者の安全性への効果を調査しています
3)。
安全機構付き注射針には、注射後に自動的に安全機構が作動して針先(患者側)のみを保護するものと、針先 および後針(カートリッジ側)の両側を保護する針刺し損傷防止機構付きのもの(BD オートシールド デュオ™)があります。我々は、それぞれの注射針の使用期間ごとの針刺し・切創発生件数と各針の使用期間の針刺し・切創発生件数を3施設合計の使用期間(のべ月数)で割った月あたりの発生件数を算出し、従来針のみの使用期間における針刺し・切創発生件数と安全機構付き注射針の導入後の針刺し・切創発生件数を比較しました。
その結果、安全機構付き注射針導入後の針刺し・切創発生件数(0.20件/月)は従来針のみの使用期間(0.33件/月)に比べて有意に減少していました(p=0.0396)(図)。事故のうちわけは、リキャップ時、注射後の廃棄時、前回の針が装着されたままといった使用後が大半を占めており、受傷59件のうち51件(86.4%)は安全機構付き注射針の導入によって防止可能な事例でした。
我々のような大学病院以上にインスリン投与治療を行っている施設やクリニックには、是非、このデータを参考にして取り組んでいただければと思います。実際には患者が使い慣れている従来針を使用しての注射介助を行わざるを得ないこともあり、また、安全機構付き注射針であっても、穿刺中に患者が動いてしまうこともあることで、針刺し・切創はゼロにはなりません。しかし、安全機構付き注射針の使用によって、リキャップせざるを得ないペン型注入器において針刺し損傷要因の9割弱を防止できたと言えます。ただ、患者が使い慣れている従来針を完全に廃止するわけにもいかず、安全機構付き注射針と混在していることは問題のひとつです。