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特集:カルバペネマーゼ耐性腸内細菌目細菌(CRE)に関するUp to date

2022年12月発行

掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。


国際医療福祉大学医学部 感染症学講座(同成田病院感染制御部) 松本 哲哉

はじめに

 これまで各種の耐性菌が感染症診療における大きな問題となってきた。国内では1980年代にMRSAが院内感染の主要な原因菌となり、その後もさまざまな耐性菌が影響を与えてきた。耐性菌について考える上では、どれくらい感染者数がいるのか、どの程度、難治化・重症化しやすいか、どのように診断するか、どの抗菌薬が使えるのか、などが重要な要素になると考えられる。そういう意味では、カルバペネマーゼ耐性腸内細菌目細菌(CRE)は、現時点においておそらく最も注意すべき耐性菌なのではないかと考えられる。そこで本稿では、これまでに得られているCREの知見を踏まえて、臨床的にどのように捉えるべきかについて解説を行う。

CREのとらえ方

 カルバペネム耐性を有する菌は、臨床的に有効とされる濃度のカルバペネム系抗菌薬の存在下においても生存あるいは増殖できる。現在、国内で一般的に使用されているカルバペネム系抗菌薬としてはメロペネム、イミペネム、ドリペネム、ビアペネムの4薬剤である。大腸菌、Klebsiella 属菌、Enterobacter属菌、Serratia 属菌、Proteus属菌などの腸内細菌目細菌において、これらの薬剤に対する最小発育阻止濃度(MIC)が 2μg/mL以上を示すものをカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)と呼んでいる(イミペネムの場合はさらにセフメタゾールのMICが64μg/mL以上)1)
 CREはこれまで腸内細菌科細菌(Enterobacteriaceae)という総称が広く用いられていたが、細菌のゲノム解析の結果に基づいてProteus 属菌、Serratia 属菌、Yersinia 属菌などは別の科に分類されたため、これらを包含するカテゴリーとして上位の腸内細菌目細菌(Enterobacterales)を用いるようになった。

カルバペネムの耐性機序

 カルバペネム系抗菌薬に耐性をもたらす主要な機序としては、1)カルバペネマーゼの産生、2)ポーリンの変異または欠損、3)排出ポンプによる薬剤の排出、の3つが考えられる2, 3)。カルバペネマーゼは加水分解によりカルバペネムを不活化し、β-ラクタマーゼと呼ばれる酵素の一種である。ポーリンは抗菌薬が菌体内に入る際に通過する穴の部分であるが、これが変異して狭小化したり欠損することによって抗菌薬の菌体内への流入が妨げられる。排出ポンプ(efflux pump)は能動的に薬剤を菌体外へ排出するシステムであるが、これにより菌体内の抗菌薬濃度が低下して抗菌薬の活性を低下させる。これら3つの耐性機序は単独で耐性化を示す場合もあるが、1つの菌が複数の耐性機序を同時に発揮する場合もある。

CREとCPEの区別

CREとCPEのとらえ方
図1 CREとCPEのとらえ方
 CREと紛らわしい用語として、CPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌)がある。CPEはその名の通りカルバペネマーゼを産生する腸内細菌目細菌である。CPEの多くの株はMIC 2μg/mL以上の耐性基準を満たす。その一方で、カルバペネマーゼ以外のβ-ラクタマーゼとして、例えばAmpC型β-ラクタマーゼの過剰産生株も薬剤感受性検査でCREの基準を満たす場合がある4)。また、前述したように、ポーリンの透過性の減少や排出ポンプのようにβ-ラクタマーゼ以外の耐性機序を有している細菌でもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す場合がある。そのため、CREとCPEは重複はあるものの同じカテゴリーとは言えない。CPEはあくまでもカルバペネマーゼの産生によってカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌として捉え、CREは耐性機序をカルバペネマーゼに限定せず薬剤感受性検査で耐性の基準を満たす菌と考えるのが理解しやすいと思われる(図1)。

カルバペネマーゼの種類

 これまでに報告されたβ-ラクタマーゼの種類は多数あるため、それをクラスAからDの4つのカテゴリーに分けたAmblerの分類は現在でも広く利用されている。カルバペネマーゼはAmblerの分類のクラスA, B, Dに属しており、代表的なカルバペネマーゼもそのどれかに分類される(表1)。これらのカルバペネマーゼは酵素学的に異なる特徴を有しているが、さらに世界の中で主に分布する地域も異なっている5)。日本国内において多くみられるのがクラスBに分類されるメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)であり、特にIMP型がその多くを占めている。カルバペネマーゼを産生する菌は他のβ-ラクタマーゼも同時に産生したり、β-ラクタマーゼ以外の耐性機序を併せ持つ場合もあるため、β-ラクタム系抗菌薬全般や他の系統の抗菌薬にも耐性を示す場合が多い。

CRE感染症の臨床的位置付け

 CREの代表的な菌として大腸菌や肺炎桿菌が挙げられ、さらにSerratiaEnterobacterCitrobacterなど菌が含まれる。これらの菌は尿路感染症、腹腔内感染症、胆道感染症、肺炎、敗血症など各種の感染症の原因菌となる。カルバペネム耐性の有無が菌の病原性に影響するわけではない。しかし、CREは通常の感染症診療で用いられる大半の抗菌薬に耐性を示すため、治療が無効となりやすく、結果的に難治例、重症例が多くなる。特に免疫不全患者や複雑性感染を起こしている患者では重症化し、致死率も高くなる6)
 院内においては、CREによるアウトブレイクが起こり得る。これは1)患者間の伝播、2)汚染した院内の感染源の存在、3)検査や治療など各種医療行為に伴う伝播、4)医療従事者の手指などを介した伝播、などが感染経路として考えられる。いったんCREによるアウトブレイクが起こると、各種の情報を聞き取り、現場のスタッフの感染対策の実施状況等を確認し、環境調査を実施するなど原因究明だけでも相当な負担が生じる。さらに考えられる原因に対してその対策を講じて、収束に至るまで対応を継続しなければならない。
 このようにCREによる感染は難治性感染の要因となり得るため、臨床的にも重要であり、かつ感染対策上も重要である。

CRE感染症の診断

 CRE感染症も他の細菌感染症と同様に、検体からの菌の分離、同定、薬剤感受性検査といった一般的な細菌検査の流れに従って診断が行われる。ただし、もちろん検査そのものが実施されなければ診断には結び付かないので、抗菌薬治療開始前の検体提出は当然であるが、治療経過が思わしくない症例においても、積極的に細菌検査を実施する必要がある。
 検査の結果、菌種名とともに薬剤感受性検査の結果が判明すれば、CREかどうかの判断は難しくない。ただし、もしCREが臨床検体から分離された場合は、さらに検査を実施してCPEの鑑別を行う必要がある。CREもCPEもカルバペネムに耐性を示すのであれば、その機序を明らかにすることにどれだけ意義があるか、という疑問が生じると思われる。CPEはカルバペネム耐性以外の薬剤耐性遺伝子も同時に保有していることが多いため、多剤耐性としての頻度が高く臨床的にその確認は重要である。また、CPEは基本的にプラスミドにその耐性遺伝子がコードされている場合が多く、他の菌に伝播する可能性があるため感染対策上もCPEの鑑別は必要となる。

CRE、CPEの判定

 CREやCPEに関連した検査は各種あり、ルーチンの検査で用いられるものから、必要に応じて実施されるものなどさまざまである(表2)。通常は一連の検査の中で、これらの検査法の中から目的に応じたものを選択し実施していく。

1. 薬剤感受性の確認

 分離された菌がCREであるかどうか判定するためには、表現型として薬剤感受性検査などを基にしてカルバペネム耐性の基準を満たすかどうかを検査する方法が用いられる。ルーチンの検査としては、全自動迅速同定・感受性測定装置や微量液体希釈法による薬剤感受性検査、スクリーニング培地などが用いられる。

2. カルバペネマーゼ産生の確認

 カルバペネマーゼを産生しているかどうかを確認することができればCPEの判定が可能である。酵素阻害試験はやや精度が落ちるが、カルバペネマーゼ活性を検出するmCIM法は特に専用の機器なども必要とせず、どの微生物検査室でも実施できる簡易的な方法として推奨される。

3. カルバペネマーゼの種類の確認

 カルバペネマーゼ産生菌であることが判明した場合、できればそのカルバペネマーゼの種類を明らかにすることが望ましい。NG-Test CARBA5®はイムノクロマト法の簡易的な検査でその判定が可能であり、遺伝子学的検査では血液培養などを中心としてマルチの遺伝子検査が可能となっており、各種カルバペネマーゼの確認が可能である。

CRE感染症の治療

1. 抗菌薬投与前の実施事項

 CRE感染症の治療において、どの抗菌薬を選択するかというのは重要な課題であると考えられる。ただし、治療に入る前に、分離されたCREが単なる保菌ではなく、感染症の原因菌となっているかを見極める必要がある。また、感染源のコントロールが適切に行われているかどうかも確認すべきである。すなわち、カテーテルなどの体内異物、膿瘍や壊死組織の存在下ではいくら有効と考えられる抗菌薬を投与したとしても十分な効果を期待することは困難であるため、体内異物の除去やドレナージ、デブリドマンなども必要に応じて実施する必要がある。

2. 抗菌薬の選択

 CPEでないCREを対象として治療を行う場合、カルバペネムの耐性度がそれほど高くない場合はカルバペネムの増量や他の薬剤との併用により有効性を示す場合もある。その場合、分離された菌の薬剤感受性結果を基に感受性が良好な抗菌薬を併用薬として選択する。例えば、β-ラクタム抗菌薬以外のアミノグリコシド系抗菌薬やキノロン系抗菌薬などが選択されることが多い。他にβ-ラクタマーゼ阻害薬配合抗菌薬のタゾバムタム・ピペラシリンやタゾバクタム・セフトロザンがそれぞれ単独あるいは他の系統の抗菌薬との併用で有効な場合もある。コリスチンやチゲサイクリンも選択肢となるが、副作用や有効性の点において優先的に使用すべき抗菌薬とは言えない。
 CPEによる感染症に対しては、カルバペネマーゼの種類によって投与すべき抗菌薬を選択していく必要がある7, 8, 9)(表3)。KPCなどクラスAに分類されるカルバペネマーゼ産生菌に対しては、レレバクタム・イミペネム・シラスタチン(レカルブリオ)が有効と考えられる。IMPなどのクラスBに分類されるカルバペネマーゼ産生菌に対しては、アズトレオナムも有効とされているが、他の耐性機序を有する可能性もあるため、薬剤感受性結果を踏まえて判断する必要がある。それ以外の選択肢としては、コリスチンやチゲサイクリンも考えられる。 CPE感染症の治療については、国内未承認、または開発中ではあるが、今後使用可能になる抗菌薬の候補がある。中でもセフィデロコルは鉄トランスポーターを介して細菌のペリプラズム内に効率よく取り込まれ、細胞壁合成を阻害するユニークな機序を有する抗菌薬であり、カルバペマーゼの種類によらず有効性が期待できる薬剤である。
主なカルバペネマーゼとその治療薬

おわりに

 CRE、CPEをめぐる状況は大きく変化しており、海外では特に高度な耐性菌が広がって治療を困難にしている。国内ではまだその頻度は少ないものの、長期的な視点に立てば海外からの持ち込みを含めて、今後大きな問題になる可能性を考慮して対応できる準備を進めておかなければならない。そのポイントとなるのが検査と治療薬であり、いずれもさまざまな進歩がみられている。感染症診療に携わる医療従事者だけでなく、多くの医療従事者にとっても重要な耐性菌であり、その特徴や対応策を理解しておく必要がある。

引用文献

1) Lutgring JD. Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: An emerging bacterial threat. Semin Diagn Pathol.36:182-186. 2019
2) van Duin D, Doi Y. The global epidemiolog y of carbapenemase-producing Enterobacteriaceae. Virulence. 8:460-469. 2017
3) 中野竜一. カルバペネム耐性腸内細菌科(CRE)における薬剤耐性機序の実態解明と耐性獲得機構の解明. THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 69: 81-89, 2016
4) Richter SS, Marchaim D. Screening for carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: Who, When, and How? Virulence. 8:417-426. 2017
5) E. Durante-Mangoni, R. Andini, R. Zampino. Management of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae infections. Clinical Microbiology and Infection 25: 943-950, 2019
6) Potter RF, D'Souza AW, Dantas G. The rapid spread of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae. Drug Resist Updat. 29:30-46.2016
7) 下野信行、西田留梨子. カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症の治療. 64: 742-749, 2016
8) Trecarichi EM, Tumbarello M. Therapeutic options for carbapenem-resistant Enterobacteriaceae infections. Virulence. 8:470-484. 2017
9) Tompkins K, van Duin D. Treatment for carbapenem-resistant Enterobacterales infections: recent advances and future directions. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 40:2053-2068. 2021