感染は、①感染源の存在、②感染経路による体内への侵入および排出、③感受性の存在という3つの要件がすべてそろった場合に成立する。医療機関における感染経路は、空気・飛沫・接触の3つが挙げられ、空気・飛沫感染により呼吸器感染症は起きる。空気感染の代表的な疾患は、結核・麻疹・水痘であるが、空気感染する感染症については、RoyとMiltonの提唱した新しい分類がある(表1)
1,2)。コロナウイルスやインフルエンザウイルスでも、密閉された空間では空気感染の可能性が示唆されている。
日本は先進国のなかでも結核の中蔓延国であり、現在も年間2万人以上が発病し、うち約1割にあたる2千人が死亡している。過去の流行時に感染していたが発症しなかった潜在性結核が高齢者に多く存在し、その高齢者の集団から多数の発症が起きるケースや、集団感染が起きるという構図が顕著になっている。また、複数の薬剤に耐性を持つ多剤耐性結核菌や超多剤耐性結核菌の存在も脅威である。医療従事者の職業性の呼吸器感染の事例で集団感染は年に40~60件程度確認されている。微熱や軽い咳を単なる風邪だと見過ごし、その後の一般健康診断等で肺の陰影が指摘され、発症していたことに気付くケース、結核を発病した医師や看護師らが長期間にわたって患者と接触し、知らず知らずのうちに同僚や患者を感染させ、集団発生につながったケースも全国で相次いでいる。
結核研究所疫学情報センターによると、平成24年に全国の保健所で新規登録された発病の可能性が高い感染者8771人のうち医療職は38.7%を占める(新登録潜在性結核感染症患者全体に占める割合 看護師・保健師 23.2%、医師 4.2%、その他医療職 11.3%)
3,4)。日本における医療従事者、特に看護職の結核発病リスクは報告の年代、対象、算出方法に違いがあるが、同年代の女性に対して罹患は3~4倍程度高い
4〜6)。
また、日本では看護師、臨床検査技師、病理関係者などの結核罹患率が高く、一般対象の数倍に及ぶとも報告されている
4,7)。この理由としては、看護師は患者と接する機会が他の医療従事者よりも多く、診断に必要な喀痰の採取やネブライザーの指導、吸引など、エアロゾルに曝露する危険性も高いためと推測される。臨床検査技師も同様に、外来等において採痰の指導や説明の実施、喀痰検査や結核患者の剖検など、結核菌への曝露の機会がある。
表1 RoyとMiltonによるエアロゾル感染に関する新分類 文献1、2を引用