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特集:一筋縄ではいかない クロストリジウム・ディフィシル感染症の細菌学的検査

2016年12月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

国立感染症研究所 細菌第二部 加藤 はる 先生

クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)は疑われなければ診断されない

表1 症例提示とCDIの特徴
表1 症例提示とCDIの特徴
 クロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile infection, CDI)は、抗菌薬使用などによる消化管細菌叢の撹乱に伴い発症することが多い。提示症例のように(表1)、抗菌薬を使用している症例が多く、加えて、加齢や基礎疾患の有無等がリスクファクターとなる。CDIのほとんどが消化管感染症であり、症状は下痢や腹痛が多いが、発熱や白血球増多を伴うこともあり、重篤になれば中毒性巨大結腸、イレウス、消化管穿孔により死に至る場合もある。一方で、消化管症状を示さずにクロストリジウム・ディフィシルを消化管に保有するキャリアが認められ、抗菌薬がよく使用される入院患者では多い。クロストリジウム・ディフィシルは、CDI患者および無症候キャリアの糞便とともに排泄され、医療従事者の手指を含めた環境を汚染し、医療関連感染として問題となる。したがって、オムツ交換のような排泄ケアが必要な高齢者が多く入院し、抗菌薬適正使用を含めた感染管理が充分に行われていない医療現場では、頻繁に認められる感染症である。しかし、感染管理が充分に行われていない医療機関では、そもそもCDIに対する関心および知識が低いため、本疾患が適切に診断されずに、発生率が表面上低いことが多い。

CDIの細菌学的検査において検体採取と検査依頼は重要なステップ

表2 クロストリジウム・ディフィシル感染症の細菌学的検査におけるよくある間違い例
表2 クロストリジウム・ディフィシル感染症の細菌学的検査におけるよくある間違い例
 消化管症状が認められ、臨床的にCDIが疑われた患者において検査を行い、無症候キャリアの検査は行わないことが原則である(表2)。治療経過のチェック目的や、隔離解除を判断する目的で、細菌学的検査を繰り返すことは意義がない。接触予防策から標準予防策への変更は、消化管症状の回復時、消化管症状回復2〜3日後、CDI治療終了時、CDI治療終了2〜3日後など、医療機関・病棟によって判断基準は異なるが、細菌学的検査結果からではなく、臨床経過から判断する。糞便検体採取および輸送のためには、十分量の検体が入り、検体採取時に検体を入れやすく、輸送時に検体がこぼれることなく、さらに検査室で検体を取り出しやすい検体輸送容器を準備することがまず重要である。適切な検体採取ができてこそ、信頼できる検査結果が得られる。また、CDI発生率の高い高齢者では、オムツ交換などの排泄ケアを行うスタッフが下痢発症に気づくことが多いため、気づいた際にその場で検体採取ができるように工夫すると、より早く診断が可能となる。

シンプルに糞便検体中毒素検出検査をやればいいのか

クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)疑い症例
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 CDIの細菌学的検査として、迅速キットによる糞便検体中毒素 (toxin A and/or toxin B)検出がまず行われる。施行が迅速・簡便であるが、毒素産生性クロストリジウム・ディフィシル培養検査(toxigenic culture, TC)や細胞培養法による糞便中毒素検出と比較して、明らかに感度が低い1)。したがって、毒素陽性であればCDIと診断できるが、毒素陰性ではCDIを否定できない。そこで、毒素検出の感度の低さを補うかたちで、糞便検体中グルタメートデヒドロゲナーゼ(GDH)検出と毒素検出が組み合わされたキットが市販され、利用されている。毒素陰性GDH陽性の場合は、毒素産生性は不明であるが、クロストリジウム・ディフィシルの存在が示唆されるため、TC検査か、クロストリジウム・ディフィシルのtoxin B遺伝子検出検査(nucleic acid amplification test, NAAT)による検査を追加試験として行う必要がある。GDH陰性であれば、CDIを否定できると考えられるが、菌株によってはGDH検出検査の感度がTC検査と比較して70%前後であったという報告があり2)、GDH陰性であっても臨床的に強くCDIが疑われる場合は培養検査かNAATを行う必要がある。つまり、ルーチンでクロストリジウム・ディフィシル分離培養検査を行っている検査室では GDH検出は不要かもしれない。また、特異度の高い検査であっても、CDI有病率が低い状況(endemic setting)では陽性的中率(PPV)が低くなり、偽陽性検体数も増加することを念頭にいれるべきである1)

毒素産生性クロストリジウム・ディフィシル培養(TC)検査を行う意義

 TC検査は、 NAATも含めたCDIの検査のなかで、もっとも感度の良好な検査法である。その反面、細胞培養法による糞便中toxin B検出結果はアウトカム(30日死亡率)と関連があったことに比して、TC検査結果はアウトカムと関連がなかったという研究結果から、糞便中細胞毒素陰性・TC陽性例は「他の原因によって下痢を発症し、クロストリジウム・ディフィシルを消化管保有している状態」ではないかとの指摘もある3)。クロストリジウム・ディフィシルの培養検査は、陽性であれば、培養開始24〜48時間後にコロニーが認められ、分離コロニーにおいて迅速キットにより毒素産生性を検討することも難しくないため、医療機関内の検査室で検査を行うのであれば、それほど遅くなく臨床現場へ結果を報告できる。すべての分離株において毒素産生性を検討することが難しくても、毒素非産生性菌株である可能性をコメントして、培養結果を臨床現場へ報告することは意義があると考える。しかしながら、外部検査センターへ検査依頼をする場合は、結果報告までに1週間程度の時間がかかり、それぞれの症例における治療や感染対策を講じるうえではまったく役に立たない。したがって、外部検査センターに検査を依頼する場合は、NAATが今後TC検査の代わりになっていくと考えられる。一方、分離培養検査が行われない限り、アウトブレイク調査時などに菌株における詳細な検討はできないため、検査センターでも院内検査室でもクロストリジウム・ディフィシルを培養する技術を維持していく必要があると思われる。

CDIを疑うのであれば、目的の不明確な「培養検査」はやめよう

 糞便検体を「培養検査」として検査依頼すれば、自動的にクロストリジウム・ディフィシル培養検査が行われると誤解されている場合が少なくない。クロストリジウム・ディフィシル分離にはクロストリジウム・ディフィシル用選択培地の使用が必要であるため、検査依頼をする際にCDIを疑っていることを検査室(検査センター)に伝え、クロストリジウム・ディフィシル分離培養だけを検査依頼する必要がある。一方、CDI疑い患者からの糞便検体で、培養対象の不明確な「好気培養」「嫌気培養」の検査依頼がなされることがあるが、検査室の負担になるだけなので、やめるべきである。

遺伝子検査(NAAT)をどう導入するか

 クロストリジウム・ディフィシルのtoxin B遺伝子を検出するキットが、日本にも導入されつつある。施行が簡便・迅速で、感度・特異度が高いが、前述のTC検査と同様に「過剰診断」であるという指摘もある3)。さらに、試験あたりのコストが高いため、検査依頼、検体採取、結果判断を含めたCDIの細菌学的検査に関して理解と知識に乏しい臨床現場では、導入に慎重であるべきかもしれない。前述のように、迅速キットによる毒素検出/GDH検出検査と組み合わせたアルゴリズムを用い、毒素陰性GDH陽性の検体、および毒素陰性GDH陰性であっても強くCDIが疑われる症例からの検体における追加試験として NAATを用いることが経済的・実際的ではないかと思われる。一方、まずNAATを行い、NAAT陽性であった検体において、迅速キットによる毒素検出ステップを行うアルゴリズムを推奨する意見もある1)

BI/NAP1/027株の推定検出は何を意味するのか

 BI/NAP1/027株は、北米を起源として欧州へひろがり、2000年前後から高病原性 (hypervirulent) 株のひとつとして注目されている株である。北米でBI/NAP1/027株が問題視されたために、toxin B遺伝子検出に加えて、binary toxin遺伝子検出およびtcdC遺伝子変異検出によりBI/NAP1/027株の推定検出機能が組み合わされたNAATキットが、米国で開発された。本キットを使用する際に考慮しなければならないのは、日本では、現在のところBI/NAP1/027株を含めたbinary toxin陽性株によるアウトブレイク事例は報告がなく、優勢株としても認められていないことである。日本の医療機関でアウトブレイク事例の流行株や優勢株として問題となっているのは、toxin A陽性toxin B陽性binary toxin陰性のPCR-ribotype 018株と、toxin A陰性toxin B陽性binary toxin陰性の PCR-ribotype 369株であり4)、BI/NAP1/027株検出が否定されたとしても、医療関連感染やアウトブレイクの否定にはならない。もちろん、BI/NAP1/027株による感染でなければ、その症例が劇症化しないというわけではなく、結果を読みすぎないことが重要である。

医療機関・病棟でのCDIサーベイランスの重要性

 抗菌薬が使用される一般医療機関で CDI症例数がゼロということはありえない。どのような疾患の患者が入院しているか、どのような治療や感染対策が行われているかによって、CDIの発生率は異なるが、それぞれの医療機関および病棟ごとに「平時のCDI発生率」をモニタリングし、発生率があまりに低ければ適切な検査がなされず見過ごされている可能性を考える必要がある。「平時のCDI発生率」を知ってこそ、アウトブレイク発生の兆しを早期に察知し対応することが可能となる。それぞれの症例における診断はもちろん重要であるが、医療機関全体で、下痢・腸炎症例において常日頃適切な検査を行うことが、有効な感染管理につながる。

引用文献

1. Crobach MJ, Planche T, Eckert C, Barbut F, Terveer EM, Dekkers OM, Wilcox MH, Kuijper EJ. 2016. European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases: update of the diagnostic guidance document for Clostridium difficile infection. Clin Microbiol Infect 2016 Suppl 4:S63-81
2. Tenover FC, Novak-Weekley S, Woods CW, Peterson LR, Davis T, Schreckenberger P, Fang FC, Dascal A, Gerding DN, Nomura JH, Goering RV, Akerlund T, Weissfeld AS, Baron EJ, Wong E, Marlowe EM, Whitmore J, Persing DH. 2010. Impact of strain type on detection of toxigenic Clostridium difficile: comparison of molecular diagnostic and enzyme immunoassay approaches. J Clin Microbiol 48: 3719-3724.
3. Planche TD, Davies KA, Coen PG, Finney JM, Monahan IM, Morris KA, O'Connor L, Oakley SJ, Pope CF, Wren MW, Shetty NP, Crook DW, Wilcox MH. 2013. Differences in outcome according to Clostridium difficile testing method: a prospective multicentre diagnostic validation study of C difficile infection. Lancet Infect Dis 13: 936-945.
4. Senoh M, Kato H, Fukuda T, Niikawa A, Hori Y, Hagiya H, Ito Y, Miki H, Abe Y, Furuta K, Takeuchi H, Tajima H, Tominaga H, Satomura H, Morita S, Tanada A, Hara T, Kawada M, Sato Y, Takahashi M, Higuchi A, Nakajima T, Wakamatsu Y, Toyokawa M, Ueda A, Roberts P, Miyajima F, Shibayama K. 2015. Predominance of PCR-ribotypes, 018 (smz) and 369 (trf) of Clostridium difficile in Japan: a potential relationship with other global circulating strains? J Med Microbiol 64: 1226-1236.