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Ignazzo Interview: 5年目を迎えた感染防止対策加算の意義と効果を検証
~合同カンファレンスでアンケート調査を実施~

2017年11月発行
掲載内容は、情報誌「Ignazzo(イグナッソ)」発行時点の情報です。

2017年11月


平成22年度に始まった感染防止対策加算が5年目を迎えたなか、Ignazzoでは福島県立医科大学で行われた合同カンファレンスの場をお借りして、金光敬二先生(福島県立医科大学附属病院 感染制御部 部長)の進行のもとに、カンファレンス参加者にアンサーパッドを使っていただいての無記名アンケート調査を行いました。「地域連携が自施設の感染対策にどう役立っているか」、「実際に抗菌薬の使用状況は変わったか」などをお尋ねしたアンケートの模様を紹介します(アンケート結果は下の表に記載)。

9割が「感染防止対策加算は自施設のレベル向上に役立っている」と回答

金光:アンケート回答者は医師11人、看護師11人、薬剤師10人、検査技師9人の合計41人(途中退出者1人)です。ほぼ同等の人数であり、バランスが取れていると言えるでしょう。
 最初の質問である「感染対策について加算連携施設で相談可能な人がいますか ?」について「いる」と答えた医師は10人(医師全体のうちの90%)、看護師は11人(100%)、薬剤師は7人(70%)、検査技師は6人(66.7%)と、医師と看護師については「相談可能な相手がいる」との回答が多いようです。特に看護師については、感染管理認定看護師(ICN)のネットワークがうまく機能していて、ICNのいない施設も連携する施設のICNに相談できる環境が整っているようであり、相談相手がいないという看護師が皆無であったことは力づけられました。
 その半面、薬剤師と検査技師で6~7割にとどまっていることがやや気がかりです。感染対策に特化している集団であるICNのネットワークにおいては感染制御について尋ねやすいのですが、薬剤師や検査技師が所属している薬剤師会・検査技師会が感染制御に特化しているわけではないとの背景もあるのでしょうか。
 また、全員に「感染防止対策加算は自施設の感染対策のレベルアップに役立っていますか ?」を尋ねた結果は39人(97.5%)が「役立っている」と回答しています。これには本当に嬉しく思います。「こんなことで役立っている」という具体例があればご紹介ください。

医師:自施設で、たとえば標準予防策がなかなか徹底できないなどの問題があったときに、合同カンファレンスのデータを紹介して皆を説得しています。「錦の御旗」ではありませんが、県内の他の施設のしっかりしたデータがあることは説得力を増しています。

看護師:さまざまな研修に参加して県内の各施設のICNと顔見知りになることで、わからないことをその場で教えてもらえることは大きいですね。地域連携がなければできなかったことと思っています。

検査技師:「医大病院の感染制御部とうまく議論できるだろうか」と少しばかり敷居の高さを心配していたのですが、こうした合同カンファレンスを年に何度か行っていくなかで互いに知り合いになり、迷ったときには気軽に電話やメールできるようになったことはありがたいと思っています。

薬剤師:合同カンファレンスがきっかけになって、参加施設の薬局を見学したり、病棟での薬剤師の活動を生で見る機会を持てたりしたことは非常に有益な経験です。

薬剤師:当初は薬剤師として何ができるかわからないままに活動に参加していましたが、今では参加施設を訪れて有効な方法などを教えてもらっています。自分にとっても大いにプラスになっています。

加算1-2施設間ラウンドは加算2施設にとってよい刺激

金光:同じく会場の40人全員に尋ねた「加算1- 2の施設間での感染対策ラウンド実施を希望されますか ?」には36人(90%)が「希望する」と回答しています。我々も今年から加算1- 2施設のラウンドを実施したいと考えています。加算1施設の感染制御チームが加算2施設を訪問してラウンドするわけです。立ち入り検査とはまったく性質が違うものであり、感染対策を実施する者同士として、「ここは改良したほうがよい」「ここは素晴らしい」などの評価は皆の共有財産になると思っています。ただ、「希望しない」も4人(10%)おり、受け入れ側である加算2施設の準備もあるなど、よいことばかりではないのかもしれません。加算2の施設で「賛成」とお考えの方はご意見を聞かせてください。

医師:毎週のようにラウンドを行っていますが、マンネリ化している面もあると思っています。加算1施設は我々から見ればひとつの権威であり、「喝を入れる」という意味で是非来ていただければと思います。我々が気付かなかったことを指摘してもらうだけでも、全職員に対するカンフル剤になるのではないかと考えています。

金光:また、「外部講師を招聘した地域公開講座の年1回開催を有意義と思いますか ?」には39人(97.5%)が「有意義と思う」と回答しています。年4回の合同カンファレンスでやることは多く、まとまった話を聞く機会はなかなかありません。多くが「そうした機会」が必要と考えていることから、是非、感染症や感染管理についてのタイムリーな話題を提供できる機会を設けたいと考えています。

「抗菌薬の使用状況に変化あり」は6割

金光:感染防止対策加算制度の意義について核心を突いた質問と言える「感染防止対策加算が始まってから自施設の抗菌薬の使用状況に何らかの変化がありましたか ?」については26人(63.4%)が「変化があった」、6人(14.6%)が「変化はなかった」、9人(22.0%)が「わからない」と回答しています。6割以上が「変化があった」と答えていることは、この感染対策連携が一定程度の効果を上げていることの証左と言えるでしょう。特に薬剤師からご意見をお聞きできればと思います。

薬剤師:感染防止対策加算を取得するにあたって広域スペクトラム抗菌薬は届け出制にしました。また、バンコマイシンなどの薬物血中濃度モニタリング(TDM)も始めました。昨年の使用量は少し増えてしまったのですが、施設全体としては効果があったと思っています。

薬剤師:投与日数に対するドクターの意識は変わってきましたね。

薬剤師:自施設ではそれほど抗菌薬の種類が多くなく、使用量はその都度多かったり少なかったりします。全体としては特に大きな変化は見られません。

薬剤師:私は「わからない」を押しました。年に1回、この合同カンファレンスで参加施設の抗菌薬の使用状況を見せてもらい、データを持ち帰っていますが、医師がそのデータを見ているかと問われると、「そこまでは周知できていないのでは」と思っています。私から「加算連携施設ではこうしているので当院もそうしてください」と言うのはちょっと難しいですね。ただし、この合同カンファレンスに参加することで自分自身の意識は高まっており、TDMなども積極的に取り組んでいこうと考えています。

職業横断的に「感染対策教育」と「手指衛生の遵守率」に大きな関心

金光:職業別に「感染対策に関することで、最も関心が高い事項(3つ)はどれですか ?」を尋ねた結果、医師は感染対策教育/手指衛生の遵守率/職業感染対策、看護師は手指衛生の遵守率/感染対策教育、薬剤師は耐性菌対策(AMRアクションプラン)/サーベイランス、検査技師は感染対策教育/手指衛生の遵守率に関心が高いことが示唆されました。
 全体として感染対策教育と手指衛生の遵守率に関心が高いことはこの感染防止対策加算連携の理念が周知されていることを示しています。医師の多くが感染対策教育を重視していることは喜ばしく、感染予防の基本である手指衛生の重要性について私は『医師にとっては興味の対象外かな?』と思っていたのですが、そんなことはないようです。一方、サーベイランスについては医師の関心が薄い半面、看護師、薬剤師、検査技師では一定程度の関心があるようです。また、抗菌薬の処方量を把握している薬剤師が耐性菌対策とサーベイランスへの関心が高いのは当然のことと言えるでしょう。

医師:職業感染対策では、入職時のワクチン接種対象者の範囲や抗体価獲得の評価、抗体価が陰性化した場合の対応など、しばしば議論の対象となり、インフェクションコントロールドクター(ICD)によっても意見が分かれることも多く、関心の高さを示す結果であったと思います。AMRアクションプランによる抗菌薬使用量の削減目標の提示などが刺激となり、特に、薬剤師の方の抗菌薬適正使用への関心が高まっている印象があります。ICDと薬剤師は相互に連携しながら、院内全体の抗菌薬使用の適正化を推進することが重要と思います。

看護師:「手指衛生の遵守率」が感染制御チーム(ICT)メンバー共通の関心事だったのは興味深い結果でした。ICTメンバーはラウンドなどを通して手指衛生の遵守率向上の難しさを、職種を越えて皆さんが感じているためでしょうか。各施設とも手指衛生遵守でご苦労されていることが伺える結果だと感じました。

薬剤師:AMRアクションプランやサーベイランスについては、抗菌薬使用量の把握や適正使用(AST活動)などへの薬剤師としての関わりも大きく、対策に苦慮していることも含めた日頃の関心の高さの表れかと思います。今後、AMRへの取り組みについて、他の施設とも連携して結果を出していきたいと考えています。

金光:職業横断的に感染対策教育と手指衛生の遵守率に関心が高いことが示されたことを今後の活動にも活かしていきたいと考えています。また、職業別に関心事がやや異なることも当然であり、ICTの役割分担を考えるうえでも参考になりました。今後、特にAMRアクションプランについては成果を求められるかもしれません。AMRアクションプランも含めて、感染対策の向上は一朝一夕にできる話ではありません。施設のマンパワー、時間的制約、検査体制の違い等の問題もあります。それでも、今後もこのチームで一緒に歩み続けたいと考えています。

福島県立医科大学附属病院の感染防止対策加算における連携

■加算連携施設名
1-1連携:大原綜合病院、北福島医療センター、福島県立医科大学附属病院
1-2連携:あづま脳神経外科病院、済生会福島総合病院、谷病院、JCHO二本松病院、南東北福島病院

■これまでの活動
参加施設に若干の増減があるものの、上記施設とともに感染防止対策加算の活動を開始して5年目に突入しました。年度末には次年度の合同カンファレンス、年4回のスケジュールを決定しています。参加施設からの要望が多い「アウトブレイクの対応」、「耐性菌報告サーベイランス」、「抗菌薬使用量と耐性菌」、「職業感染対策」、「インフルエンザ対策」、「職員研修」、「環境整備」、「ICTラウンド」などについて議論してきました。このなかで特に集中して勉強したいテーマについては、外部講師を招いて地域公開講座も開催しています。今年から始まる加算1と加算2の施設のラウンドも含めて新しい試みにチャレンジしていきます。
表	アンケートの結果(途中退出者1人)
表 アンケートの結果(途中退出者1人)