表2
2012年から日本でも中医協に費用対効果評価専門部会が組織され、2016年4月からは試行的導入が開始された。オプジーボやソバルディを含んだ複数の既存薬に関して費用対効果のデータ提出が要求され、外部専門家による再分析・費用対効果以外の要素を考慮する総合的評価を経て、2018年4月の薬価改定時に結果を反映させる予定である。従前の「費用対効果評価を導入すべきか否か」の議論はもはや過去のものとなり、「どのように医療制度の中で費用対効果を活かしていくか」に移行したといえる。
ほんの数年前ならば、最初に紹介した情動的な意見、すなわち「医療にお金の話を持ち込むべきではない」「人命は地球より重い」「日本には費用対効果のような発想はなじまない」を持ち出すことで、議論を終わらせることができた。ソバルディ、オプジーボ、レパーサの「黒船」により、高額薬剤をめぐる空気は根本から変わった(表2)。
空気が変わったのは喜ばしいことだが、かといって「オカネ」のみの話に矮小化することもまた問題である。売上げや財政影響を考慮するのはもちろん重要ではあるが、「財政影響」と「費用対効果」、すなわち「オカネと効き目のバランス」は、常に双方に着目する必要がある。
「黒船」以降、皆保険制度を維持していくために、医療でもオカネの話をすることはある意味不可欠となっている。「国から要求されなければ、費用対効果のデータなど誰も気にしない」時代から、「行政・医療従事者・患者その他、どのステークホルダーからも効率性の議論が提起されうる」時代へと、状況は変わりつつある。オカネの話を誰も気にとめなかった時代には、高い保険点数(薬価や材料価格や手技料など)を得ることがゴールとされ、その価格が価値に見合っているかどうかが議論されることはほぼなかった。しかし今後は臨床現場においても、オカネと効き目のバランスを適切に説明することが求められる時代にある。国だけでなく、患者・医療提供者・一般の人など、医療技術をとりまく「どの」プレーヤーが「いつ」問題視してもおかしくない状況が生まれているのである。これらを踏まえて筆者は、費用対効果評価に関するリスクは「やるリスク」から「やらないリスク」に転化したと捉えている。
今までの再算定ルールに加えて費用対効果を考慮することは、一見、ハードルがさらに高くなったようにも思えるが、「オカネ」と「効き目」を両にらみしつつ、真の医薬品の価値を明らかにするためには、むしろ不可欠なハードルである。効き目に目を向けずにひたすら医療費削減だけを追求していくようなスタイルには、いずれ限界がやってくる。企業にとっての「逆風」が吹き荒れる中で医療技術の価値を正しく伝え、予見可能性を最低限確保するための手段として、費用対効果のデータが適切に活用されることを望みたい。