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症例1 - 心停止を呈した64歳男性患者の治療

心停止 心室細動

欧州のケーススタディ集 臨床における体温管理療法

情報および背景

治療実施国:ドイツ
治療実施施設:シャリテ大学病院

概要

# 目撃ありの心停止、VF、バイスタンダーによるCPR は実施されていない
# 国際ガイドラインが推奨する体温管理療法や予後への道筋を含む詳細な標準業務手順書
# CPC3 → CPC1 への軌跡

医師に関する情報 フリドーリン・ルッケンバッハ、医師
クリスティアン・シュトーム、医師、医学博士

シャリテ・ベルリン医科大学
内科、腎臓・集中治療科、心停止センター・オブ・エクセレンス(COE)
ドイツ、ベルリン
体温管理の院内実績 8年にわたり、成人の心停止患者に対し様々な手法で体温管理を実施。
 + 機器・手法  Arctic Sun™ 5000 体温管理システムを体温管理に使用し、シバリング防止のため手袋と靴下を手足に装着。

症例提示

患者年齢64 歳男性
発見時の状況心停止時に目撃者あり。
目撃者による心肺蘇生は実施されなかった。
初回の所見心室細動
患者が緊急状態にあった時間6分間の血流停止。
病院到着前に取られた措置除細動3回、エピネフリン静注(IV)、
冷却液の静注による冷却、挿管。
併存症動脈性高血圧症、冠動脈疾患。
病院到着時の患者の状態鎮静状態、機械的換気下、循環は安定。
換気パラメータBIPAP ASB、呼吸数(f)16/分、圧力8/22
病院到着時の心調律洞調律
心拍再開(ROSC)までにかかった時間28分
治療開始前のグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)GCS3
入院時の診断名心停止/心室細動
実施された神経学的検査および予後の判定NSE、SSEP、EEG、CCT/GWR

冷却療法

事前冷却を開始した場所救急車
実施した事前冷却法4℃の冷却液1500mLの静注および冷却ヘルメット
体温管理を開始した診療科集中治療科
メインの体温の測定部位食道
目標冷却体温33℃
目標温度の所要維持時間24時間
目標復温速度0.25℃/時
目標体温の到達にかかった時間2時間
低体温療法/復温/常温療法に関連した合併症なし

院内プロトコルに準拠したか

「いいえ」の場合、その理由を簡潔に説明はい

シバリングに対する処置

神経筋遮断薬/鎮静薬神経筋遮断薬の使用なし。
鎮静薬の種類イソフルラン、レミフェンタニル

転帰

退院時の状態良好
退院時の脳機能カテゴリー(CPC)CPC1
退院時の患者のステータス:生存/死亡生存

概要

公共の場で心停止を発症した64歳男性患者について報告する。
現場に家族が居合わせたが、バイスタンダーによる心肺蘇生(CPR)は行われなかった。6分間の停止後、到着した救急隊(EMS)がCPRを開始した。心室細動が認められたため、救急救命士が自動除細動器を操作し、除細動器により3回のショックが実施された。ドイツでは、高度な訓練を受けた救急医師が心停止の現場に同行する。よって、二次救命処置(ACLS)中に救急医師がエピネフリン(累積投与量6mg)を投与した。28分後、患者の心拍再開(ROSC)が確認され、当院の心停止センター(CAC)への搬送を開始した。
救急車内で、冷却ヘルメットの使用とクリスタロイド液1500mLのボーラス静注投与により体温管理療法(TTM)を開始した。
ヘルメットとクリスタロイド液は、 車内冷蔵庫で4℃で保管されていた。最初に現場で測定した鼓膜温は36℃だった。
CAC到着後、院内の標準業務手順書(SOP)に従い冷却プロセスを継続した。中心体温を測定するため食道温センサーを挿入し、冷却液の静注を継続した。コンピュータによる体表面フィードバックを行う冷却デバイスであるArctic Sun™ 5000 体温管理システムを自動モードで開始。目標体温は33℃に設定した。
33℃を24時間維持した後、自動的に復温プロセスを開始し、37℃に達するまで0.25℃/時で継続した。その後、発熱は回避され、冷却デバイスにより37℃前後の正常体温を24時間維持した。
12誘導心電図(ECG)でST上昇型心筋梗塞は確認されなかった。
動脈造影および血管形成術を実施し、良好な初期結果を得た。
アセチルサリチル酸とクロピドグレルによる抗凝固療法 が開始された。
冷却中は、吸入麻酔(イソフルラン)と短時間作用型オピオイド静注(レミフェンタニル)を併用し、患者に深鎮静を行った。シバリングを防ぐため、冷却の導入時から手足を手袋と靴下で覆い加温を行った。
初回のCPR中に誤嚥が疑われたため筋弛緩薬は使用しなかった。
気管支鏡検査および洗浄を行い、タゾバクタムとピペラシリンを用いて計画的な抗生物質療法を開始した。微生物用プローブにより肺炎桿菌が検出されたため、その後、試験済みの抗生物質のスペクトルに応じて抗菌薬治療をメロペネムに変更した。 抗生物質は低体温療法を受ける患者全員に投与されるわけではなく、誤嚥などの後に感染のエビデンスが認められる場合に限定される。
肺炎はすぐには回復しなかったため、気管切開術を実施した。その後は、早期に人工呼吸器から離脱でき、気管カニューレも抜去された。心停止後の予後判定についても、SOPに準拠している。
72時間後、神経特異エノラーゼ(NSE)を検査したところ、23.2g/Lであり、正常範囲内(<16.3g/L)に近かった。体性感覚誘発電位(正中神経刺激によるSSEP[短潜時体性感覚誘発電位])の検査を実施した結果、皮質成分N20が明瞭に確認された。
4日後に行った脳波検査(EEG)では正常な波形が示された。
こういった検査の結果が不良である場合は、コンピュータ断層撮影(CT)を実施し、脳水腫の初期パラメータとして灰白質/白質の比率(GWR)を計算する予定であった。NSEおよび正中神経刺激によるSSEPの結果が良好だったことから、本症例ではCTは行わなかった。
患者は神経学的に非常に良好な回復を示し(脳機能カテゴリー1)、心停止から20日後にICUを出て循環器科に移動した。
その5日後に退院し、心停止の生存者専門のリハビリ施設に入所した。

考察

本報告の患者は、心筋梗塞が原因で発生した心室細動による心停止後に、当院の心停止センターに入院した。
本症例は、ベルリンの心停止センターにおいて実施された、国際ガイドラインが推奨する体系的な救急および心停止後治療の例を示している。この分野横断的アプローチを構成する主な要素は、体温管理療法や予後への道筋を含む心停止後治療について詳細な指示が記載されている標準業務手順書である。
心停止後症候群は、複雑かつ独立した疾患として捉える必要があり、よってその治療は標準化されるべきである。長期的な予後は、確立されたマーカーを用いて判定すべきだが、尚早な治療の中止を防ぐため、繰り返しの検査や十分な観察機関が必要となる場合がある。判定プロセスは、複数の種類の再検査結果を用いて進めるべきである。
将来的な心停止後治療には、早期かつ安全な予後判定および低酸素性脳障害の重症度を示すパラメータを向上させる新たな手法が必要である。
当院では、体系的な心停止後治療の実施により、良好な神経学的転帰を得て退院する患者の数が近年倍増している。



販売名: Arctic Sun 5000 体温管理システム  医療機器承認番号 : 22700BZX00278000
販売名: Arctic ジェルパッド         医療機器認証番号 : 226ADBZX00175000

※本レポートはBD TTM ヨーロッパチームが作成したものを日本語訳にしたものです。
※今回ご提示頂いた結果は、著者の臨床経験例によるもので、全ての症例に当てはまるものではありません。患者様の状態、特性によって結果が異なる場合があることにご留意ください。
※ 本資料は学術的情報の提供を目的としており実際のご使用に際しては、事前に必ず添付文書を読み、本製品の使用目的、禁忌・禁止、警告、使用上の注意等を守り、使用方法に従って正しくご使用ください。 本製品の添付文書は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医薬品医療機器情報提供ホームページでも閲覧できます。