公共の場で心停止を発症した64歳男性患者について報告する。
現場に家族が居合わせたが、バイスタンダーによる心肺蘇生(CPR)は行われなかった。6分間の停止後、到着した救急隊(EMS)がCPRを開始した。心室細動が認められたため、救急救命士が自動除細動器を操作し、除細動器により3回のショックが実施された。ドイツでは、高度な訓練を受けた救急医師が心停止の現場に同行する。よって、二次救命処置(ACLS)中に救急医師がエピネフリン(累積投与量6mg)を投与した。28分後、患者の心拍再開(ROSC)が確認され、当院の心停止センター(CAC)への搬送を開始した。
救急車内で、冷却ヘルメットの使用とクリスタロイド液1500mLのボーラス静注投与により体温管理療法(TTM)を開始した。
ヘルメットとクリスタロイド液は、 車内冷蔵庫で4℃で保管されていた。最初に現場で測定した鼓膜温は36℃だった。
CAC到着後、院内の標準業務手順書(SOP)に従い冷却プロセスを継続した。中心体温を測定するため食道温センサーを挿入し、冷却液の静注を継続した。コンピュータによる体表面フィードバックを行う冷却デバイスであるArctic Sun™ 5000 体温管理システムを自動モードで開始。目標体温は33℃に設定した。
33℃を24時間維持した後、自動的に復温プロセスを開始し、37℃に達するまで0.25℃/時で継続した。その後、発熱は回避され、冷却デバイスにより37℃前後の正常体温を24時間維持した。
12誘導心電図(ECG)でST上昇型心筋梗塞は確認されなかった。
動脈造影および血管形成術を実施し、良好な初期結果を得た。
アセチルサリチル酸とクロピドグレルによる抗凝固療法 が開始された。
冷却中は、吸入麻酔(イソフルラン)と短時間作用型オピオイド静注(レミフェンタニル)を併用し、患者に深鎮静を行った。シバリングを防ぐため、冷却の導入時から手足を手袋と靴下で覆い加温を行った。
初回のCPR中に誤嚥が疑われたため筋弛緩薬は使用しなかった。
気管支鏡検査および洗浄を行い、タゾバクタムとピペラシリンを用いて計画的な抗生物質療法を開始した。微生物用プローブにより肺炎桿菌が検出されたため、その後、試験済みの抗生物質のスペクトルに応じて抗菌薬治療をメロペネムに変更した。 抗生物質は低体温療法を受ける患者全員に投与されるわけではなく、誤嚥などの後に感染のエビデンスが認められる場合に限定される。
肺炎はすぐには回復しなかったため、気管切開術を実施した。その後は、早期に人工呼吸器から離脱でき、気管カニューレも抜去された。心停止後の予後判定についても、SOPに準拠している。
72時間後、神経特異エノラーゼ(NSE)を検査したところ、23.2g/Lであり、正常範囲内(<16.3g/L)に近かった。体性感覚誘発電位(正中神経刺激によるSSEP[短潜時体性感覚誘発電位])の検査を実施した結果、皮質成分N20が明瞭に確認された。
4日後に行った脳波検査(EEG)では正常な波形が示された。
こういった検査の結果が不良である場合は、コンピュータ断層撮影(CT)を実施し、脳水腫の初期パラメータとして灰白質/白質の比率(GWR)を計算する予定であった。NSEおよび正中神経刺激によるSSEPの結果が良好だったことから、本症例ではCTは行わなかった。
患者は神経学的に非常に良好な回復を示し(脳機能カテゴリー1)、心停止から20日後にICUを出て循環器科に移動した。
その5日後に退院し、心停止の生存者専門のリハビリ施設に入所した。