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症例2 - 自宅で時間持続する重度の急性狭心症胸痛を呈した52歳男性患者

心停止 心室細動

欧州のケーススタディ集 臨床における体温管理療法

情報および背景

治療実施国:スペイン
治療実施施設:ムトゥア・テラサ大学病院

概要

# AMIに続発するVF
# ROSCまで30分、4回の除細動ショック
# 適切なシバリング管理

医師に関する情報 バルタサール・サンチェス・ゴンザレス博士
リカルド・フェレール博士

ムトゥア・テラサ大学病院
集中治療科
スペイン、バルセロナ
体温管理の院内実績 成人の心停止患者を対象に5年間にわたり体温管理療法を実施

機器・手法

本症例では、Arctic Sun™ 5000 温管理システムを使用して、低体温療法の導入、維持、ならびにその後の復温を実施した。使用前に水量が正しいことを確認し、システムを起動させた。
目標体温は33℃。初回測定時の患者体温が35.1℃だったため、心臓カテーテル検査後に集中治療室(ICU)にてArctic Sun™ 5000 体温管理システムを使用し、自動モードで低体温療法の導入を行った。冷却した生理食塩水(20mL/kg)を静注投与し、温度プローブを直腸に配置した。経鼻胃カテーテルおよび尿道カテーテルによるフラッシングを行った。ミダゾラムのボーラス投与(2.5mg/kg)とフェンタニルのボーラス投与(100 mcg)で鎮静を行い、その後も持続静注により深鎮静状態を維持した。
低体温療法の開始時に体温が急降下した後、正しい鎮静法を実施しているにもかかわらず振戦が発現した。持続する振戦は33℃の維持を試みる低体温療法の障害となり(画面上に表示されるトレンドが最高水温に達していることにより判断)、患者体温は33℃を超えて上昇を始めた。適切な鎮静度を維持し、アトラクリウムのボーラス投与(0.5mg/kg)を行った。ミオクローヌス活動が消失したため、アトラクリウムのボーラス投与により振戦が止まったことを確認した後(患者の深部体温は再び33℃に戻りつつあった)、アトラクリウムの継続静注(0.3mg/kg/時)およびバイオロジカルインジケータ(BIS)を用いた毎時間の制御(レベル40~60を維持) の開始を決定した。Arctic Sun™ 5000 を使用して患者を目標体温レベルに維持した。復温の開始後、継続的な弛緩は中止した。
体表面ECG、中心静脈圧(CVP)、観血式血圧、またPiCCO®を使用し心拍出量を継続的にモニターし、厳格な血行動態管理を実施した。代謝状態(血液ガスおよび電解質)、凝固、血球数を管理するため、治療開始時に分析検査を行った。
合併症が起こるのを防ぐため、代謝状態(血液ガスおよび電解質)の管理のための分析検査を6 時間ごとに実施した(分析検査値を実際の患者体温に反映して調整した)。
システムが正しく機能するためには患者の実体温を得ることが重要であることから、温度プローブの正しい動作と配置を確認し、基準値に照らした深部体温を4 時間ごとに計測した。
異常な心調律は確認されなかった。

症例提示

患者年齢52歳男性
発見時の状況自宅において、1時間持続する重度の急性狭心症胸痛を呈した。患者はまず外来医療センターに来院し、ECGにより急性心筋梗塞(AMI)に合致する徴候が示された。近隣の病院へは自己手段で(自分の車を運転して)行き、病院の玄関で意識を失った。
初回の所見病院の救急チームが二次救命処置を実施した。
病院到着前に取られた措置ROSCの後、体表面ECGを行い、その結果は下壁急性心筋梗塞(下壁AMI)と合致した。
病院は、緊急の心臓カテーテル検査を行うため、モバイルICU を利用して当院センターに患者を紹介する準備を進めた。(画像ECG1参照)。
併存症脂質異常症、喫煙者、肥満症。
病院到着時の患者の状態心臓カテーテル室に到着した時点で、患者のグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)は3 でショック状態(80/40mmHg)にあり、120 bpm の洞調律ならびに下壁側のST セグメントの上昇が認められた。
ドブタミンとノルアドレナリンを用いて血管作動薬投与を開始した。心臓カテーテル検査により、右冠動脈の近位部に90%の急性血栓性病変を認めた。ベアメタルステントを留置し、TIMI 3の良好な結果を得た。
患者は、心原性ショック(心係数:1.6L/分/m2)、ならびに急性肺水腫の徴候を示す急性低酸素性呼吸不全(PO2/FiO2:220mmHg)を来し、ICUに入院した。(画像ECG 2 参照。)その後24時間以内に良好な経過が得られ、血管作動薬を完全に中止することができ(心係数:3.5L/分/m2)、PO2/FiO2は400mmHgに改善、急性肺水腫の徴候も改善した。不整脈性合併症や機械的合併症は出現しなかった。
換気パラメータ換気量制御。FiO(吸入気酸素濃度):100%。PEEP(呼気終末陽圧):10。TV(1 回換気量):510mL。
RR(呼吸数):18回。
病院到着時の心調律心室細動(VF)
心拍再開(ROSC)までにかかった時間ROSCに至るまでに計4回の除細動ショックを必要とした。30分。
治療開始前のグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)3
入院時の診断名心室細動による心停止を伴う下壁AMI。
実施された神経学的検査および予後の判定72時間後の体性感覚誘発電位検査は正常な結果を示し、両側皮質反応は維持され、頸部皮質時間は正常範囲であった。7日目の脳MRIでは、虚血性の無酸素性脳症に合致する広範なテント上皮質の関与が確認された。(画像MRI 1 およびMRI 2 参照。)

冷却療法

事前冷却を開始した場所心臓カテーテル検査後、ICUで開始。
実施した事前冷却法冷却した生理食塩水の静注投与(20ml/kg)、および冷却水による経鼻胃および尿道の洗浄。
Arctic Sun™ 5000 体温管理システムの使用前に、同システムで事前冷却を実施。
体温管理を開始した診療科集中治療科
メインの体温の測定部位直腸用プローブ
目標冷却体温33℃
目標温度の所要維持時間24時間
目標復温速度0.25℃/時
目標体温の到達にかかった時間120分
低体温療法/復温/常温療法に関連した合併症低体温療法の実施中に軽度の低カリウム血症がみられたが、容易に制御できた。

院内プロトコルに準拠したか

「いいえ」の場合、その理由を簡潔に説明低体温療法と復温中に厳格なモニタリングを実施するための院内プロトコルおよびチェックリストあり。

シバリングに対する処置

神経筋遮断薬/鎮静薬アトラクリウムの初回ボーラス(0.5mg/kg)およびその後の投与(0.3mg/kg/時)。
鎮静薬の種類ミダゾラム(0.2mg/kg/時)およびフェンタニル (100mcg)。

転帰

退院時の状態神経状態の変動により、12日間の機械的換気法と気管切開術の実施が必要となり、GCS10に改善。また、全身衰弱が残存し、胸部の制御と着座の維持が困難であった。急激で非協調性の四肢運動、コントロール不良の精神運動性激越のエピソードを伴う幼児的行動も持続した。入院から7週間後、患者は退院してリハビリテーション施設に移り、同施設に約5カ月滞在した。患者には徐々に改善がみられ、のちに気管切開の必要がなくなったが、失行、液体の嚥下困難、および統合された協調運動における顕著な困難は持続した。この期間、着替え、衛生管理、転倒防止目的の胸部サポートを行うため、患者には2名による介助が必要だった。 現在、患者は自宅に戻り、医療センターに通院しリハビリテーションを受けている。 運動およびコミュニケーションのレベルは改善したが、衛生管理などのため依然として1名の介助が必要である。グラスゴー転帰尺度(GOS)とCPCは3から変化なし。
退院時の脳機能カテゴリー(CPC)GOS/CPC3
6 カ月時点のCPC(該当する場合)GOS/CPC3
退院時の患者のステータス:生存/死亡生存

考察

本症例で示したAMIに続発するショック適応リズムを伴う院外心停止は、低体温療法の典型的な例である。ROSCを達成するうえで、除細動と冠動脈再灌流が重要であった。心臓カテーテル検査のための患者搬送が当センターに直ちに依頼されていれば、AMIを確認するまでの時間は短縮され、その後のVFは回避できた可能性がある。本症例では、心原性ショックに関連するAMIであったにもかかわらず、冠動脈再灌流後に血行動態が顕著に改善した。低体温療法後の経過では、心電位に関する合併症はみられなかった。
中等度の低体温療法は、ショック患者に対して厳格な血行動態管理と分析管理を行うことで安全に実施することが可能である。



販売名: Arctic Sun 5000 体温管理システム  医療機器承認番号 : 22700BZX00278000
販売名: Arctic ジェルパッド         医療機器認証番号 : 226ADBZX00175000

※本レポートはBD TTM ヨーロッパチームが作成したものを日本語訳にしたものです。
※今回ご提示頂いた結果は、著者の臨床経験例によるもので、全ての症例に当てはまるものではありません。患者様の状態、特性によって結果が異なる場合があることにご留意ください。
※ 本資料は学術的情報の提供を目的としており実際のご使用に際しては、事前に必ず添付文書を読み、本製品の使用目的、禁忌・禁止、警告、使用上の注意等を守り、使用方法に従って正しくご使用ください。 本製品の添付文書は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医薬品医療機器情報提供ホームページでも閲覧できます。