このたび、感染対策チーム(ICT: Infection control team)のための雑誌
「イグナッソ」が発刊されることになりました。感染制御を実際に行っていくためには、感染症、抗菌薬、消毒・滅菌、臨床微生物、医学統計、医療経済、物品管理などの幅広い領域の知識が要求されます。しかし、ICTのメンバーの職種は、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、栄養管理師、事務職員などさまざまであり、専門でない領域の理解に日々ご苦労されていることも多いかと思います。本誌は、実際に活動しておられるICTメンバーのための雑誌であり、毎号で、ICTメンバーが実際に感染対策を行っていく際に必要な知識や情報が掲載されています。内容的にも、例えば薬剤耐性菌の話題も職種を超えて多くの方々が容易に理解できるような記載に心がけました。また、医療経済の問題は感染制御とも深く関わっており、今後ますます医療の質とともに経済的なアウトカムが求められる時代では、経営者側に感染制御の有用性をさらに認識してもらうチャンスともなり得ます。欧米では以前から、感染制御と医療経済に関する多くのエビデンスが構築されており、本誌では、米国の医療経済を解説するコラムを設けましたので、その考え方をぜひご参考にしていただきたいと思います。さらに、これまでにない特徴として、感染制御に関する知識の整理や施設内での勉強会などで活用できるビデオ資料やパワーポイント資料などがCD-ROM付録として巻末につけられています。非常に有用な資料ですので、ICTでぜひご活用ください。
また、感染制御に関する情報は徐々に増えてきてはいるものの、地域、施設によってはまだまだ十分とはいえないのが現状です。さらに、感染制御の手法はその施設の状況等に応じて異なることも多く、それぞれの施設でさまざまな工夫のもとに感染制御が実施されるなど、必ずしもガイドラインには記載されていない有益な情報も数多くあると思われます。そこで本誌では、読者間あるいは読者と本誌との間の情報交換が可能なコーナーを設けました。このコーナーには、感染対策で工夫されている例、CD-ROM付録
*に載せて欲しい内容、本誌をどのように活用されたか等、どのようなことでも結構ですのでぜひお寄せいただきたいと思います。
ところで、お気づきの方も多いでしょうが、本誌のタイトルは、ハンガリーの産科医師、イグナッツ・ゼンメルワイス(Ignaz Philipp Semmelweis)からとったものです。彼は1818年生まれで、ブタペスト大学を卒業後、自分の勤務していた産科病棟で院内感染(産褥熱)が多かったことに気づき、手洗いの重要性を説きました。そして、 患者を診る前には必ず手を洗うよう手洗い場を用意したとされています。当時、彼の意見は受け入れられませんでしたが、彼は自分の信念を曲げることはありませんでした。日本の感染制御の歴史はまだ始まったばかりかもしれませんが、彼のような実直さと実行力をもってすればいかなる困難も克服されると考えています。
本誌が皆様方の感染制御のお役に立ち、良質な医療を提供することの一助となりますことを心より望んでおります。
2004年、初秋
賀 来 満 夫